すり、と胸元に擦り寄られるのを適当に受け流していると、次は頭をぐりぐりと押し付けられた。…地味に痛いんだが。
押し付けられた頭に手をやって軽く撫でてみたら、満足そうに喉をくるくると鳴らして、更に頭を押し付けられる。その小動物さながらの仕草に、微かに頬が緩むのを感じた。

王牙学園の教官からさえも敬遠されている俺に近寄ってくる、物好きな女。特に害になることを仕出かすでなく、ただただ俺の名を呼んで、俺の後ろを鳥の雛の如くちょこちょこと付いて回るだけだったからしたいようにさせていただけなのに。いつの間にか俺自身が彼女にほだされて、こうやって抱き付いてこられるのが普通になってしまった。

「うー…かたいよー」
「鍛えていたら柔らかい所なんてすぐに無くなる」

筋肉がつくからな、と言ってやれば、不満げに俺を見上げる彼女。

「どうせふにゃふにゃだもん」

頬を膨らませて拗ねる様なフリをして見せる彼女を穏やかな心地で見つめる。
…こんなにも、誰かに対して優しい気持ちを感じたことはなかった。触れただけで儚く壊れてしまいそうな柔らかい身体を慎重に抱き締めれば、なお一層強まるのは恐らく、安らぎと言う感情なのだろう。
恐る恐る、鼻先を彼女の髪の毛に近付ければ、ふわふわとした甘い香りが漂ってきた。…ああ、落ち着く。

「…好きだ」
「…え?」

ついぽろりと零れ出る言葉。言ってしまってから彼女に目を向ければ、軽く目を見開いて俺を見上げている彼女と目線が合う。

まさかついこの間まで人間の情を理解できなかった俺が、誰かに愛を囁く時が訪れるとは思わなかった。
「…誰よりも、愛している」

衝動に任せてそう熱っぽく囁くと、相変わらず驚いた表情で俺を見つめる彼女の前髪をそっと払いのけ、そのまま軽く唇を額に押し付けた。
直後、勢い良く腹回りに彼女の腕が回され、ぎゅっと力を込められる。

「…ほんとう?」
「…ああ」

「…わたし、わたしもね、バダップの事、大好き」

淡い桃色の唇から溢れ出た言葉。
だいすきだよ、ともう一度温もりを込めた囁きが聞こえてくるのを享受しながら、胸に広がる何とも言えない甘ったるい感情もろとも彼女の身体を強く強く抱き締めた。





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