彼の部屋の扉をノックして、開けられた瞬間、勢い良く扉の向こうにいる彼に抱き付く。わたしはこの瞬間が実はとても好きだったりする。

「おかえりバダップ!」
「…ただいま」

ぶっきらぼうではあるが、任務の時よりも格段に柔らかく優しい声で返答されて、わたしは嬉しさにいっそう顔を緩ませた。いつも仏頂面で怖い感じではあるけれど、親しくなればバダップは意外にも優しいと言うことは付き合い始めた最近知ったことだ。

「あれ、また痩せた?任務がハードだったの?」
「そうでもない、普通だ。大体、痩せているのは俺じゃなくてお前だ、また肉が薄くなってるだろ」
「そうかなぁ?普通に食べたり飲んだりしてたよ?」

他愛のない話を続けながら、2人で彼の私室にある簡素なベッドに並んで腰かける。そうっと、遠慮がちにバダップの方に寄り添ってみても、彼は何も言わなかった。

唐突に会話が途切れる。でも、その会話の切れた沈黙もバダップと一緒に居られるなら全く苦にならなかった。…だって、こうやってただ寄り添っていられるのは、傍に居られるのは、彼の次なる任務が決まるほんの僅かな間だけだから。

バダップ・スリードは良く出来る人間だった。成績も良ければ戦闘能力(若しくはサッカーとも言う)も申し分無く高かった。顔だって整っていて、まさに一寸の隙さえ無いような、そんな人だった。だから、ヒビキ提督の覚えもめでたくて、沢山の任務を言い渡されることも多く、いつでも忙しそうにしている。
わたしとは、全然違う。

会える機会もめっきり減ってしまっても、声が聞きたくても、わたしの我が儘で彼を振り回すことは、許されない。…例え、いかに寂しくても、我慢しなければならない、のに。

「…元気が無いな、お前らしくない」
「…バダップが暫く構ってくれなかったから、って言ったら?」

つい口にしてしまった言葉に一抹の後悔を覚える。―彼は忙しいのだ、わたしなんかと違って。一緒に居られるだけで満足しなければならない相手であるはずなのに…。

「…ごめんなさい、今の言葉、忘れて」

沈黙を通す彼に呟くように謝罪する。もしかしたら、呆れられてしまったかもしれない。
あまりの気まずさに俯いていたら、不意に彼に僅かに寄り添うだけだった身体をそっと抱き寄せられた。そしてくい、とわたしに顔を上げさせて、バダップは自分の額とわたしの額とをくっつけた。

「…それは、悪かった。暫く音沙汰も無かったな」
「…」

あのバダップからそんな言葉が出るとは思わなくて、ゆるゆると目を見開いていけば、彼は珍しく苦笑に似た笑みを顔に浮かべて、わたしの目を覗き込んできた。温もりが近くなる。

「…暫く、傍にいてくれる、の?」
「ああ。…次の任務はまだまだ先だから、な」

途切れ途切れに言葉を紡げば、彼にしては珍しく柔らかく笑ってそう答える。そして、その次の瞬間、わたしの耳元で呟いた。

「…その代わり、次の任務までの間は俺を癒してくれ」

にやり、と笑った彼の顔に、今更ながら頬が赤くなるのを自覚しつつ、わたしはバダップの腕の中に飛び込んだ。早く、頬の熱が醒めますように。




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