ひゅう、と吹き込む風に肩を竦める。めっきり冷え込んだ空気は私達の体に容赦なく突き刺さった。

「さむ…」
「まあ女子は特にスカートだからな。更に寒さが増してる感じがする」

誰にともなく呟いたつもりだったのに、隣にいたエスカに聞こえていたらしい。少し哀れまれるような感じの目をされた。良いよね男子は。この季節は長ズボンが羨ましいよ。思わず目線がエスカの履いている濃緑のズボンに落とされる。…交換とかしてもらえないかな…。

「…交換はしないからな」
「…まだ何も言ってないよ」
「顔に書いてあるんだよ…スカートと交換はしないからな、絶対」

念を押すようにそう言うとエスカは先に歩き出す。釣られるようにわたしもそれに従って後ろ背を追う。コンパスの違いがあるのに、それでも私が追い付ける程度に歩調を緩めて歩くのは、エスカの優しさだ。本人は照れてしまってけして言わないし、私も余計なことは言わないけれど。
学校の終わりに寮へ直接帰らず、学外を散歩しようと言い出したのはどちらだったのか。まるで学内の人目を憚るかのように、私達はもはや習慣付いてしまったいつもの散歩道を歩いていた。他愛もない話をしながら歩く私達は、周囲からどう見られているのだろうか。
ふと、遠く離れた学舎を省みる。 あの中では私とエスカはあまり一緒に居られない。居るべき場所や、あるべき姿が、私と彼では違うから。だからこの時間は貴重で、私にとっては安らいだ時間だった。

「…マジでさみーな」
「エスカ、鍛えてるから平気なんじゃないの?」
「アホか、鍛えてても鍛えてなくても寒いもんは寒い」

うーさびさび。と、首を竦めて目を細める彼に私は苦笑する。こう言う子供っぽい仕草をする度、なんだか安心してしまう。近くにいられるな、なんて。

「つーか腹減ったな…」
「夕食前だもんね。…帰る?」

時刻はもう夕暮れ時。そろそろ戻らねば学食の時間が終わってしまう。元々が少食の私はともかくとして、食べ盛りのエスカは夕御飯抜きはキツいだろうし。名残惜しく感じつつ、ゆっくりと目線をあげる。エスカは少し目を細めて考え込んでいるようだった。

「…エスカ?」
「…あそこのコンビニに寄るぞ」

がし、とエスカの右手が私の左手を掴むとさっさと歩き出す。力強い歩みに少々戸惑いながらもそれに続く。私の手を握る彼の手はナイフを握るのに相応しく、骨張っていて、かさついた大きな手だった。やんわりと、けれど離れないような強さ。不思議だなあ、なんてぼんやりと考え込んでいたら、ふいに暖かい空気が頬を撫でた。いらっしゃいませ、なんてやる気のない平淡な女性の声が私達を迎える。店内の明るい照明と夕陽のコントラストで陰を作るエスカの彫りの深い顔が、やけにこの庶民的な感じに合わなくて、思わず吹き出してしまった。

「…何だよ?」
「いやあ…何かエスカってコンビニと合わないなあって」
「何だそれ。結構コンビニに寄ってるぞ俺。大体俺だけじゃなくてバダップとかミストレとかとも来るし」
「え…!?」

意外だ、意外すぎる。大体あのバダップくんコンビニに来て何買うんだろうか。おにぎりとか買ってるのかな?…何か可愛いかも。
おにぎりを持ってレジに並ぶバダップくんを想像して頬をゆるめていたら、目の前に湯気の立つ物体が差し出された。

「…え?」
「何呆けてんだ。…ほら」

若干頬を赤く染め、顔を反らした彼が差し出してきたもの。

「、…肉まん?」
「…悪いか?好きなんだよ、これ」
更にグッと肉まんを私に向ける彼の勢いに飲まれて、それを反射的に受けとる。そしてそのまま勢い良く手を引っ張られて店外へと連れ出される。いつの間にか彼の反対の手にはコンビニの袋が握られていた。…いつのまに買っていたんだろうか。

「…い、いただきます」
取り合えず受け取ったそれを口に含んだ。ホカホカと優しい熱と肉汁が口に広がり、次いで全身の血の巡りが良くなる感じがした。ちらり、と横目でエスカを見れば、彼は私の反応を伺っているようだった。

「…美味しいよ?」
「そっか…」

伝えれば、あからさまにホッとしたように自分の持っていたモノへかぶりつく。暫く私も彼も無言で口を動かしていた。そして最後のひとかけらを飲み込むと、暫く離れていた手がどちらからともなく繋がった。照れたように微かに笑みを浮かべたエスカに心臓がとくり、と動くのを感じていたら。

「また今度、来ようぜ」
「…コンビニに?」
「ん、…まあ別に此処じゃなくても良いけどよ、」

お前と一緒に色んなとこに行きたいって言う話だよ。
聞き取れるか聞き取れないかの境くらい、小さな呟きはちゃんと私には届いていた。…だから、私もちょっとだけおどけておねだりなんかしてみるのだ。

「…今度はあんまん食べたいな」
「そしたらまたコンビニだな」

外はもう薄暗くて、少し肌寒かったけれど、暖かい気持ちで私達は手を繋ぐ。いつの間にか星が輝いている夜道を仲良く帰るために。





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