雷門中に入って初めての期末テストが間近に迫っていた一週間前から、わたしは1人図書館で勉強していた。自分の部屋でも別に良いけど、やっぱり出来るだけ静かで人の居ない方が集中出来るから。それに、分からないところが出てきても直ぐに先生に聞きに行けるし。…まあ、普通はちゃんと授業聞いて、教科書読んでたら解けない問題なんて殆ど無いんだけれど。

「なーに考え込んじゃってんの?」
「…へっ…あ、浜野先輩!?」
「へへ、ビックリした?」

突然後ろから話しかけれた事に驚いて勢い良く振り返れば、悪戯が成功したみたいな顔をした浜野先輩がいた。いつも見る部活のユニフォームじゃなくて、制服を着ている。…勉強しにきたのかな?ちょっと意外、真面目なところもあるのかな。
こんな失礼な事を考えつつも、やはり第一印象が正直、ちょっとチャラいお兄さんって感じだったから。テスト期間とかも勉強しなさそうなイメージが強かった。憧れの(同性として、だけど)水鳥先輩からすると“ただのバカ”らしいんだけど。

「うわ…勉強してたの?なんちゅーか、マジメだなー」
「…え?勉強しにきたんじゃないんですか?」
「違う違う、オレ漫画読みに来たんよー。速水がテスト勉強とかあるから遊べませんとか言うからさー」
「…因みに先輩、テスト対策は?」
「ん?全くしてない!」

ニカッと笑いながら爽やかに言い切る先輩。…確かこないだ、あの明るくて優しい円堂監督に中間テストの点数について叱られてたような気がするのだが。…うん、やっぱり水鳥先輩の言う通りバカかもしれない。

「先輩、また監督に叱られますよ…」
「あー…今回は鬼道コーチもいるしなー。やべーかも」

たはは、と適当に笑ってわたしの隣に普通に座った。そしてなおもわたしの手元を覗き込んであー…と唸る。

「…どうかしました?先輩」
「や、俺もうこの辺りで既にちんぷんかんぷんだわー」
「これまだ1年の前期期末範囲ですよ…?」

これにはわたしもほとほと呆れてしまった。中学の三年間はあっという間だと聞く。そもそも小学の六年間もあっという間に感じていた私にとっては、恐らく中学なんてもっと短く感じるはずだ。そして中学が終われば次は高校。もう義務教育の範囲ではないから、勿論受験というものが生じるし、それに対応して潜り抜けなければならない。…それともサッカー部の人は(しかも浜野先輩はレギュラーだ)そんなに勉強しなくてもスポーツ推薦とかいうのもあるのかな?

「…あのさー、麻衣」
「…はい、何でしょうか浜野先輩」

不意に真剣な表情と声で私を呼ぶから、少しだけビックリして返事が少し遅れてしまった。隣に見える横顔は、よくよく見てみるとカッコイイ、部類に入る気がして、何だか妙にドキドキしてしまう。…私、変なの。

「一緒に勉強してもいいか?…ここで」
「は、はい…ってええ!?此処で!?一緒にっ?」
「うん。…なんかさー俺、一人じゃ勉強できないんだよね」

かと言って速水とか倉間は俺に勉強教えるだけ時間の無駄とかって言うしさー、と何時もの顔に戻った浜野先輩は困った表情で背伸びして頭の後ろで腕を組んだ。その気持ちは分るかもしれない。誰かが真剣に勉強していると、何故だか私もやらなくちゃ、って気持ちになるけれど、一人だと(自室だと特に)だらけてしまって、本を読んでしまったり寝てしまったりしがちだから。ある意味効率的なのかもしれない。

「…良いですよ。別に断る理由もありませんし」
「マジで!?やった、ありがとー」

ちょっとぶっきらぼうな言い方をしてしまったけれど、浜野先輩は嫌な顔一つせずに、むしろ爽やかにニッと笑ってみせる。そしていつの間にか持ってきていた鞄から早速ごそごそと取り出して私の隣にどさりと置いて見せた。

「…で、さ…悪いんだけど、一緒に考えてくんない?」
「…あの、私今一年ですよ…?」
「知ってる!…一緒に考えてくれるだけでいいから!」
「…それがすごく体力使う作業なんじゃないですか…!」

…色んな意味で一緒に勉強する事になりそうなんだけど。…まあ、何だかんだで嬉しそうな顔をしている浜野先輩が何だかちょっと可愛く思えて得した気分だったから、…良いかも。なんて思った、罪作りな夕暮れの図書館の一日だった。
…最も、すごくテストまで大変だったのだけれど、まあその辺りは割愛という事で。

世界一Happyな女の子 song by ℃-ute



/
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -