その意思の在り処は

*ちょっとネタバレ…?
*ちょっと映画への布石?

少し聞きたい事があったから、監督を探していたら。雷門中の中心に近い旧部室の中でたくさんの写真に囲まれたまま、うたた寝をしている円堂監督を見つけた。起そうか、否かを自分の中で反芻していると、いつも俺たちにかけてくれるよりももっと柔らかく優しい声が耳を掠めた。

「…ありがと…豪炎寺、くん…。…好き、だよ…」

監督の寝顔は、あどけなく安らいだ、戦いとはおおよそかけ離れた表情をしていた。

***

「…起してくれれば良かったのに…びっくりするでしょ、寝顔を覗かれたら…」
「すみませんでした…」

まだ眠たいのだろうか、目を擦りながら文句を言う監督に俺はただただ謝るしかなかった。気持ち良さそうに寝ている円堂監督を起せずに、ずっと寝顔を覗き込んでいたら。目を覚ました彼女にビックリされて悲鳴を上げられてしまい。…確かに俺が悪かったので、ただただ平謝りする。…と、監督は欠伸をしつつもぽつり、と呟きを零す。

「…すっごくね、幸せな夢を見てた気がする…わたし、何か言ってなかった?寝言とかで…」
「…はい。…“ありがとう、豪炎寺くん。…好きだよ”…と」
「あはは、そんな事言ってたか〜。…懐かしい夢だったからね…」

懐かしげに目を細めながら楽しげに語る彼女は、いつも何倍も優しそうな顔をしていた。…だから、傷付けるかもしれないと思いつつも、聞かずにはいられなくなってしまった。

「…今、豪炎寺さんは何をなさっているか…ご存知なんですか?」
「…勿論、知ってるよ。…剣城くんも知ってるだろうけど…ね」
「…ご存知だったんですか…」

にこ、と微笑んでみせる彼女は、一見何とも無さそうに振舞っていた。…が、やはり寂しそうな色は隠しきれないようだった。茶色の瞳の奥には滲み出すような哀しみの表情が浮かぶ。そして、それと同じくらいの決意の色も。
不思議な程に落ち着いている彼女の態度は、やはり俺たちと違って年を重ねた人だからなのだろうか。

「なのに、戦うと決めたんですか?かつての仲間だったのに。…好き、と告げるような相手なのに…」
「当然でしょう?…仲間だからこそ、間違ってたら正してあげる。それが仲間だもの。その為にいるんだから」

さも当たり前、という感じで言ってのける彼女は、あまりにも凛としていた。普段のそれとは全く違う、気高ささえも感じる程の迫力。

「わたし、豪炎寺くんの事、今でも好きだよ。あの人と出会ったからわたしは色んな人とサッカー出来たんだって、そう思ってるもの。感謝だってしてる。でもね、それとこれとはぜんっぜん違うの。わたしや鬼道くんは今の彼がしてる事は間違いだって思うってる。…そして、それは仲間だから正しい方向にしたい、って思うの」
「…上手くいかなかったら、どうするんですか?彼らの方が正しいと言い切られてしまったら?」
「その為の“革命”なんじゃないの?」
「強気ですね…」

もういっその事見上げた根性だ、と思うほどの啖呵を切ってみせる彼女は、本当に大物だと思ってしまった。…もしかしたら、初めて会ってから今までで、一番尊敬した瞬間かもしれない。
…監督に言ったら、ちょっと叱られそうだけれど。

「勿論!何事も強気で行かなきゃね!…大丈夫、いざとなったら雷門の皆はわたしが守ってあげるから!」
「は…監督が…?」
「そう、わたしが!天馬くんも、神童くんも…勿論、剣城くんの事もね。わたしの大事な後輩達だもん、絶対に傷付けさせないから。…例え、相手が豪炎寺くんでも、ね」

だから、頑張ろうね!
先ほどの毅然とした表情はどこへやら。再び幼い表情が戻ってくる。…やはり、監督にはこの表情が似合う。ふとした瞬間、そんな事を思ってしまう自分にも苦笑しつつ、彼女に頷きを返した。

「善処します。…いざとなったら、頼みますよ、監督」
「勿論!任せて!」

まあ…守ってもらうのはその場の口約束だとして。彼女になるべくそんな事をさせないために、自分たちで戦わなければ。…そんな事を胸の内に言い聞かせて、漸く思い出した要件を彼女に尋ねるために口を開いた。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -