続いてゆく、

最近の円堂は、昔に比べると少しだけ弱った気がする。今までは何だかんだであまり自分の弱さを見せようとせずに、ぎりぎりまで抱え込んでは爆発させていたのに。
サッカー部の皆が帰路について無人となった薄暗い部室の椅子の上に踞るようにして座る彼女の横顔は、目に見えて落ち込んでいる様に感じる。ゆっくりと近寄ると、ちらり、と横目だけで俺を眺めて、ひとつ、物憂げにため息をついた。

「…どうした?やけに疲れた顔をしているな」

あの頃と変わらないな、と10年も前の過去に軽く思いを馳せながら、栗色の頭に手をやる。そのままぐるり、と髪の毛をかき混ぜると彼女から軽い呻き声が上がった。

「…豪炎寺くん、が…」
「…ああ」

絞り出した様な声音は、固かった。俺達が出会って、同じチームで仲間として共に戦う切っ掛けを作った張本人。行動自体は目立たないけれど、彼女が幼馴染みと同じくらいに大切に思っていた事を、俺は誰よりもよく知っていた。

「寂しいのか」
「……」

沈黙は何よりの肯定。誰よりも強く輝くように見えて、その実誰よりも孤独を畏れ、身近な人間が離れて行くのを酷く嫌う。
そして、この状況。指導者として、今の雷門を支えなければいけないと言うプレッシャーと、革命派の響木さんや久遠さんから受ける期待は、確実に彼女を追い詰め始めている。

「無理をするなよ…と、言いたいところだが…」
「…無理してないよ」

わたし、まだ元気だもん。だなんて。一体どの口が言うのだろうか。明らかに捨てられた子犬みたいな目をして、拗ねた子供の様に丸まっているくせに。

強がって見せる彼女にああ、変わらないな、と苦笑を漏らしつつゆっくりと正面から彼女を抱き締める。すっぽりと腕に収まり、余りさえする身体に自身の成長も実感した。

「…大丈夫だ。俺や春奈は絶対にお前から離れない。傍にいる」
「…うん、」
「だから、安心して背中を任せてくれ。…そして、あの馬鹿者の目を覚まさせよう」
「馬鹿者…かぁ」
「ああ、馬鹿者、だ。何なら何もかも終わった後、好きなだけシュートの的にするといい」
「…そだね」

漸く僅かながらくすり、と笑って見せた彼女は、すり、と自ら頬を俺の首元辺りにすりよると、耳元に唇を軽く押し付けてきた。微かに濡れた感触が何とも艶かしく感じて一瞬、思考が停止する。

「…ありがと、鬼道くん。…大好き」
「…っ…!?」

そして、囁かれたこの言葉。…相変わらず罪作りな所は変わってないらしいな、と赤く染まりつつある耳を自覚しながら。ぎゅう、と更に腕に力を込めた。そしてお返しと言わんばかりに、俺も彼女の耳元に唇を当てる。これから先の覚悟を、この言葉に込めながら。

「…俺も、だ」

…そう、俺は完全に諦めたわけではないのだ。まだ、天は俺を見放してはいない。




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