何かを持つ人

帝国の地下深くで、鬼道有人や佐久間次郎、そして響木正剛達にじゃれている監督を見て、漸くああ、この人はイナズマジャパンのメンバー、そしてキャプテンだったか、と改めて思い知らされた。…正直、普段の彼女は頼りない近所のお姉さんみたいな感じの人だったから。

「…監督は本当にイナズマジャパンにいたんですね」
「え?…あれ、知らなかったの?」
「いえ知ってましたけど。改めてそう思っただけです」

いつもの放課後の練習の時間、休憩をしている横で監督がうーん、と伸びをしていた。…腹が見えてる…。ふと隣を見たら、神童が真っ赤な顔をして勢いよく明後日の方向を向いていた。

「監督、腹が見えますよ」
「ん〜?もう、そんな細かい事気にしないで蘭丸ちゃ…くん」
「今蘭丸ちゃんって言いそうになりましたね…神童がいつ鼻血を吹くか分らないので、なるべく気をつけてくれると助かるんですけど」
「っ…霧野!」

神童の必死の叫びを軽くいなして再び監督を見れば不思議そうな顔をしつつはーい、と俺の言葉に素直に従う。仕草や言動は何処と無く幼い感じがするし、俺たちに対する態度だって殆ど友達感覚、良くて先輩後輩の感じで話しかけてくる辺り、前監督の久遠監督と百八十度違っていて、本当に年上に思えない人だ。変な所で頑固だったり、素直だったり、そういう所とかも、全然大人っぽくないし。

「…監督、久遠監督みたいになりたいって思ったこと無いんですか?」
「久遠監督みたいに?それってどういう意味で?」

何となく、思ったことを口に出して言えば意外と細かい内容の問が帰ってくる。…そう、こういう所は妙に鋭かったりするからたまに侮れない。…たまに漏れる、この人の意外性のある一面が、俺は妙に好きだったりするのだけど。子供でもないけれど、大人にもなりきれない、この妙な雰囲気。きっとこれは彼女にしか出せないカラーなんだろうと、何となく思ってしまう。

「そうですね…大人っぽさとか?」
「あ〜…確かに久遠監督大人っぽいよね」
「気になったりしませんか?前任者がこうだったから、とか」
「劣等感を抱かないかって事?…あんまり感じた事ないなあ。だってわたしはわたしだもん。久遠監督と比べたってそもそも母体が違うし…」

んー…と唸り声を上げながらちょっと考え込み始めた監督の横顔を見つめる。…やっぱり、こういう時に見せる顔。普段は見せない翳りとシャープな感じが、元々幼い監督の顔立ちと相まって妙に色気を感じさせる。女性らしい色気ではないけれど、人として出す色気、とでも言えばいいのか…不思議と良い距離感を掴んでいる、そんな人。

「…うん、やっぱり気にした事無いよ。わたしがあんな風にやったってきっと何も上手くいかない…、…なに、蘭丸くん。わたしの顔に何かついてる?」
「…いいえ。何でも」
「そう?…ん、とにかくわたしはわたし!だからわたしなりに頑張るの!」

そしてころっと幼い子供の様に笑う監督は、やっぱり不思議な人だと思う。松風と同じ感覚…いや、それ以上に神秘的なオーラか何かに包まれているような気がする。人をほぐして、自分の方に柔らかく引きずりこむ。…この人の周囲は、何だかんだで安心できるから。

「…そろそろ練習に行きます」
「うん、頑張れ!…わたしも参加したいなあ。皆とサッカーしたいよ」
「…じゃあ、ホーリーロード終わってから参加してみたらどうですか?紅白戦のキーパーとか」
「楽しそう!やりたい!…っと、その前にちゃんと勝たなきゃね〜」
「そうですね、頑張りましょう」
「…うん、頑張ろうね!」

満面の笑みで返された言葉に密かに笑いながら彼女に背を向ける。随分と居心地の良くなったサッカー部への足取りは、もう軽やかだった。




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