寂しいふたり

ふわふわと風に揺れる、茶色の髪。くるんとした丸めの、髪と同系色の瞳。
見た目は普通の女の子だけれど、多分あたしがサッカーによって知り合った初めての同性の友達。それが円堂紗玖夜だった。

「塔子ちゃん、一緒にお風呂入ろ」

拗ねたように唇を尖らせて紗玖夜があたしの背中にもたれるように抱きついてくる。あたしも大概スキンシップが激しいとかってパパに言われるけど、多分あたしよりも紗玖夜のがスキンシップ激しいんじゃないかな。同性だけで無く、異性に対しても恥じること無く堂々と抱きついたりしてるし。

「ああ、良いよ!…でもどうしたんだ?そんなにぶすけてさ。何かあったのか?」
「…怒られちゃった」

何故拗ねているのかと聞いてみれば、端的にその一言で返される。
それだけでは流石に分かりかねて、首をかしげて見せたら紗玖夜は相変わらず拗ねたような感じでため息を吐いた。

「一緒にお風呂に入ろうよって言ったら、皆に叱られたの」

お前は女だから、って。
男とは一緒にお風呂に入っちゃダメだって言われちゃった。

「それ、酷くないか?」
「だよね〜…何でダメなんだろうね?」
「サッカーだって一緒にやってんだからさ、お互いの背中流しあったって良いよなあ」
「うん、わたしもそう思ったの!」

ふざけたように、お互いがお互いに軽口を叩き合う。
…でもホントは多分、紗玖夜は分かっているんだろう、自分が他のサッカー部メンバーとは違うことに。勿論、あたしだって分かってる。あたし達は女、アイツらは男。たったそれだけの違いから、多きな違いが生まれていく。
紗玖夜もあたしも、それを痛いほど理解していた。

…でも、理解することと納得することは全然違う。あたし達は理解はしているけれど、納得はしきれていないのだ。

「ねえ塔子ちゃん」
「ん?何だよ紗玖夜」
「…このまま時間が止まれば良いのにね。昔は早く大人になりたかったけど、」

今は、大人になりたくないよ。

寂しい呟きが漏れて、紗玖夜が物憂げに溜め息を吐く。それは、あたしも同じ気持ちだった。
だって、どんなに頑張ったっていつかアイツらはあたし達を置いていってしまうから。今はそう大差無いかもしれないけれど、これから年齢を重ねる事にその差は顕著になってくるだろう。
それを寂しいと、そして悔しいと感じるあたし達は、変なのだろうか?

「…ねえ塔子ちゃん、わたしを置いていかないでね。皆が離れていっても、ずっと、一緒にいて」
「…ああ、当たり前だろ!あたしと紗玖夜は友達だからな!」

ぎゅっと背中に感じる温もりが強くなる。…きっと紗玖夜も、その時が来るのを恐れているんだろう。
あたし達はある意味似た者同士だ。だからこそ、寄り添いあって自分達の身を守ろう。

「よし、紗玖夜、今から男子風呂に奇襲をかけよう!」
「あ、それ楽しそう!早く行こ!」

冗談と悪ふざけと本気を混ぜ混んだ事を言うと、紗玖夜もそれにおどけたように乗ってくる。…そう、こうやっていつか来るその時を誤魔化してしまおう。今まではお互い1人きりだったけど、今ではもう1人じゃないから。

辛いことも、悲しいことも。2人で霧散させてしまおうか。



塔子ちゃんってもっと明るい子の筈なんだけど…








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