橋渡しをする旅路
それから何日か経った後。風丸一郎太と名乗ったツバメはあっという間に回復し、今では人を乗せて空を飛べるほどに回復してしまいました。…そしていよいよ、花の国で待つ鬼道の元へと行く日になったのです。
「…じゃあ、佐久間くん…わたしはこれで。今までお世話になりました」
「いや、こっちこそ、色々家事とかやらせて悪かったな。助かってたよ。…元気でな」
「うん、佐久間くんも元気でね」
今までお世話になった佐久間との別れを済ませ、風丸に抱えられてから空へと飛び立ちました。…来たときと同じように、勢い良く空を飛んでいますが、しっかりと抱えてくれる腕があるので来るときよりもより安心して捕まっている事が出来ました。
「…ねえ、鬼道くんってどんな人?」
「そうだな…眉目秀麗、文武両道と言った感じかな…性格は少しきついかもしれないが、本音は優しい奴だ」
「そっか…」
感慨深げに溜め息を吐く紗玖夜が気にかかったのか、彼はすっと微かに俯いた彼女の前髪を払い、しっかりと彼女を見つめました。
「不安…か?」
「…正直言ってね…」
やはりいきなり嫁に、と言われてはいそうですか、と頷けるものではないのかもしれない、と思いつつも、自分にはどうする事も出来ない歯がゆさを彼はひしひし感じていました。…同時に、自分の恋心も叶う事は無い事も。
いっその事、この婚姻も無かった事にしてしまえないだろうか、このまま彼女を連れ去ってしまえないだろうか、と考えてしまいました。…ですが、一方彼女を所望した鬼道は彼の友人。友人の事も裏切る事など、彼にはできません。
「…大丈夫だ、あいつなら…鬼道なら、必ず幸せにしてくれる」
「…うん…」
優しさゆえに伏せる心を、彼女は感じたのでしょうか。それ以上何も追求する事は無く、ただただ沈黙して彼にしがみ付いていました。その温もりの繋がる時間が刻一刻と過ぎ行く中、2人は一言も話さずにただ寄り添いあっていました。
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