ツバメのお迎え

その日もまた、いつもの通りに生活していました。佐久間がご飯の材料を取りに行く間、まだ家の周りの土地しか知らない紗玖夜は家の中の掃除をして、洗濯をして。そうやって家事を上手く分担して生活していたのです。そして、今日も今日とて彼女が洗濯物を外に干そうとして外に出た、その時。
突如として地面に影が出来たかと思うと…その次の瞬間、彼女の目の前にどさり、と重たい音と共に人のようなものが落ちてきました。

「え…ちょ、ちょっと、あなた大丈夫?」
「う…えんど、…」

落ちてきたのはどうやら背中に羽が生えている所から察するに、鳥のようです。飛行中に何かあったのか、酷い怪我をしていました。もはや虫の息に近いようです。その状態を一目見て、慌てた紗玖夜はそのぼろぼろになってしまった鳥を肩に抱えて取りあえず佐久間の家へと向かいました。

***

「う…」
「あ、気付いた!…大丈夫?」

あれから数刻後。一生懸命の介護のお陰か、傷付いた鳥は何とか意識を取り戻しました。うっすらと目を開けて、ここはどこか、と探っているようです。名を問えば、彼は一郎太、と名乗りました。
取りあえず落ち着かせるためにゆっくりと彼の薄い青の髪を撫でながら、彼女は取りあえず身元を確かめるためにゆっくりと質問し始めます。

「ねえ、一郎太、何処から来たの?どうして、こんなところに?」
「…俺は、花の国の王子…鬼道の花嫁を探して、此処まで来たんだ。…チューリップの花から生まれた女の子を、捜して…」
「…わたし…?」

切なげな熱の篭った瞳。妙に熱っぽい視線を受けながら、少々戸惑いつつも聞き返す。

「…どうして、わたしが?」
「…どうしてかは、わからない。…でも、鬼道が君を嫁に迎えたがってるのは知ってる…俺と一緒に来てくれないか」

遠慮がちに、おずおずと差し出された傷だらけの腕。ここまで苦労してたどり着いたであろう彼の疲労を思って、紗玖夜は一つ溜め息を吐いて、その腕を取りました。そして、無理矢理に起き上がった彼の頭を抱きかかえて、一言。

「…迎えに来てくれたんだから、ちゃんと花の国には行くね。…でも、今はあなたは怪我を治すことだけを考えて」
「…ああ…ありがとう」

儚げに笑った彼の笑顔に何故だか心を揺り動かされた事は、彼には伝えないで置こうと固く誓った彼女は、ただ、微笑むだけに済ませてしまいました。何処か心惹かれるのは何故だろうか、そう考えながら。


バメの迎え

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