モグラの求婚

ノネズミ佐久間と生活を共にし始めてから数日。彼女にとっては彼との共同生活はとても快適で、何の文句も無いほど楽しいいものでした。…唯一つ、佐久間の隣の家に住んでいる、お金持ちでちょっと厭味なあの人の存在以外は。

「よう、紗玖夜チャン。邪魔すんぜー」
「ちょっ…!またなの、不動くん…」

佐久間が不在の時に限って現れる、隣の家に住む金持ちモグラの不動。彼は何を思ったか、彼女と初めて顔を合わせてからすぐに自分と結婚しろ、嫁に来いとわざわざ言いにくるようになったのです。佐久間と不動は隣同士の家に住んでいながら犬猿の仲なので、佐久間と一緒にいる時は姿を見せないですが、彼がいないときを見計らってはずかずかと他人の家に上がりこんできます。彼女にとってはかなり迷惑な客です。

「なあ、まだその気になんねーの?」
「ならないよ。不動くんはそう言う対象じゃないもん」
「べっつにそう言う対象じゃ無くてもいいんだよ、取りあえず嫁に来い」
「だからなんで好きでもない人の嫁にならなくちゃいけないの?ヤダってば、不動くんの嫁になるくらいなら佐久間くんにお嫁さんにしてもらうから」

あまりにもしつこい不動の求婚に、普段は気の長い紗玖夜もどうやら少々いらいらとしているようです。彼への返答が非常につっけんどんで冷たくなっていきます。しかし、不動はそれもあまり苦とせず、にやりと嫌な笑みを浮かべました。

「佐久間クンの嫁になるだあ?はっ、お前、男見る目がねーな。あんな女男のどこがいいんだよ」
「優しいし、料理上手だし、おしゃれだし、カッコイイし。すごくいいところいっぱいあるよ。…不動くんよりもずっと」
「ふん、女々しいねえ」
「女々しくて結構ですー。…もう、そろそろ佐久間くん帰ってきちゃうから、早く帰って」

いい加減不動との問答が嫌になったのか、彼女は本格的に彼を追い出そうとし始めました。時計を見れば、ちょうど佐久間が帰ってくるといっていた時刻に差し掛かっています。以前、勝手に不動が自分の家に入ってきている事を知った佐久間と不動が対面してしまい、とばっちりを食った事を紗玖夜は忘れていませんでした。…2人の喧嘩を止めるのに、どれだけ苦労したのでしょうか?

「フーン…ま、いいか。あいつに見つかったらまた面倒な事になるしな」

いつもなら散々ごねて中々帰ろうとしない不動が、今日は素直に立ち上がりました。その様子に少しだけ驚いて、…油断していた彼女の顎に細い指が絡みつき、そして唇にしっとりとした温もりが。

「…な…な…!?」
「ごちそうさま」

呆然とする彼女を尻目に得意顔で薄い唇をぺろりと舌で舐めた不動。…次の瞬間に響き渡る鋭く頬を打つ音は、まあご愛嬌と言う事で。


グラの

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