ノネズミとの共同生活

紗玖夜は非常に困っていました。何がって、此処がどこだか分からない事に、です。
訳の判らぬまま、コガネムシの半田に連れられて空を飛びまわった後、へとへとに疲れた頃になって突然地上へと落とされてしまいました。
落とした張本人はと言うと、「ごめんな!ホントにごめんな!」と平謝りしながら勢い良く後ろ向きで飛んで行ってしまいました。…と言うわけで。

「…ホント、どうしよう…」

途方に暮れて空を見上げれば、来る時は青い綺麗な色だったのが段々と紅く染まり始めていました。もう刻限は夕時です。本格的に気温が下がり始めたのを敏感に感じて、紗玖夜はぶるり、と一つ肩を震わせて一歩ずつ歩き始めました。…歩いてでもいないと、身体の温度が下がる一方だったからです。

「もう、…半田くんの馬鹿…」
「…誰が馬鹿だって?」
「え?」

1人で気持ちを紛らわせるために、ぽつぽつと此処へ連れて来た半田への愚痴を呟き続けていると、突然前方から声が聞こえてきました。自分以外にここにいないと思っていた紗玖夜は驚いて、声の聞こえた方へ顔を向けると、そこには。

「…何だ、円堂か。何でこんな所にいるんだ?お前の家はかなり遠くにあるだろうに…」
「…さ、佐久間くん…」

白いふりふりの可愛らしいエプロンをつけ、お尻の辺りから尻尾を出した佐久間がそこに立ち尽くしていました。もともとの女顔負けの綺麗な顔と相まって、非常に良く似合っています。何だか、悔しくなるくらいに。

「似合ってるね、すごく可愛いよ!」
「いや、似合ってるって言われても…」

その姿を見た紗玖夜は先程まで途方に暮れていたこともすっかり忘れ、目をきらきらさせて佐久間の姿に見入り、反対に佐久間は可愛いとか似合うとか言われて、非常に複雑そうな顔になりました。…確かに、男の子にとっては可愛い、と言われても嬉しくないのでしょうね。

「…ところで、お前なんでこんな所に?」
「えっと…半田くんに置いてかれて…」
「…行くとこが無いなら、うちに来るか?どうせもうじき夜になるし…女の子1人じゃ何かと物騒だしな」
「ホント!?…じゃあ、お願いしても…いいかな?」
「ああ、全然構わないさ」

まさに地獄に仏とはこの事でしょうか。家に帰れなくなってしまった彼女は、それから暫く佐久間と共に暮らす事になりました。
…まさか、そのお隣にちょっと変わった“その人”が住んでいるなんて、知りもしないで。


ネズミとの同生活

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