魚達の逃避行

さて、ヒキガエル豪炎寺に攫われた(?)紗玖夜は暫くの間、強制的に水の中で過ごす事を余儀なくされてしまいました。
何せ自分が水の中の何処にいるのかさえも認知できなかったため、帰るに帰れず、結果的にはまあまあ快適な生活に紗玖夜も何となく満足してしまっているようでした。…が、しかしいつまでも豪炎寺だけが良い思いをするというのは続かず。
邪魔者と言うのは何処にでも訪れるものなのでしょう、たまたまそこに通りかかった4匹の魚がたまたま1人でいた紗玖夜を見かけてしまいました。

「…あれ、紗玖夜ちゃん?」
「円堂さん!」
「あれ?吹雪くんと立向居くん、それに綱海くんとヒロトくん?…四人揃って何してるの?」

現れた4匹の魚の微妙な面子に紗玖夜も首を傾げます。綱海と立向居が一緒にれんしゅ…じゃなく、泳いでいるのを見かけた事はありますが、吹雪とヒロトはまさに火と油の関係だと思っていたからです。その2人もそろい踏みで何故此処に居るのでしょうか?

「いやあ…たまたま立向居と散歩してたんだ」
「何でこんな所にいるんですか?円堂さん」
「あー…それはその…豪炎寺くんに誘われて?」

邪気の無い笑顔で問うてくる綱海と立向居に対して紗玖夜は僅かに躊躇いを残したまま、何とか笑顔で上手く答えます。…まさか、豪炎寺くんに無理矢理拉致されました、とかこの2人には言えないのでしょう。

「うん、紗玖夜ちゃん、どうしてそこが疑問系なのかな?」
「無理矢理連れて来られたんだよね?そうなんだよね?」
「え、あ…えーっと…」

しかし、この2人にはそんな曖昧な言葉は通用しなかったようです。ヒロトと吹雪にずいずいと笑顔で迫られて、さしもの彼女も思わずたじたじとしてしまいました。真実を話すべきか、否か…迷う所なのでしょう。何せヒロトと吹雪が一緒なのです、何を仕出かすのやら…。

「よし、円堂!」
「は、はい!…あ、何だ綱海くんか…ビックリさせないでよ…」
「悪ぃ悪ぃ!一緒に泳ごうぜ!」
「あ、俺も円堂さんと一緒に泳ぎたいです!」
「ああ、いい考えだね、僕らも一緒に」
「ついでだから送っていってあげるよ」
「え、あ、あの…」

がしり、と吹雪とヒロトに両脇をつかまれ、前後ろをあっという間に綱海と立向居に囲まれた紗玖夜は瞬く間に身動きの取れない状態にされてしまった。余りの素早さに成す術も無くぽかんとしていると、何となく足元が不安定になっていくのを感じました。…どうやら皆に持ち上げられているようです。

「え…いやあの!豪炎寺くんに一言…!」
「大丈夫、俺たちが言っておくから。ね、吹雪くん」
「うん、心配しないで紗玖夜ちゃん」
「…はあ…」

何だかんだで流されてしまった紗玖夜はあっという間に再び陸地に戻されてしまいましたとさ。
…突如としていなくなった彼女を必死で探すヒキガエル豪炎寺が居たと言う事は、また別のお話で。


達の避行

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