ぽい、とあっさり投げ捨てられて床に散らばる色とりどりの箱を一つ、摘み上げて両手に乗せて眺める。つくづく、業界も酷な事を宣伝してやらせるものだ。こうやって気持ちを形にして相手に渡したとて、その相手がすげなくそれを打ち捨ててしまう事だって十分に有り得るのに。現に今だってわたしの目の前にいる男―佐久間次郎はその気持ちを形にしたものをあっさりと投げ捨てた挙句に知らんふりを決め込んでしまっている。
…まあ、お付き合いさせていただいてる身である私にとっては嬉しい事なのだけれど。
けれど、何も捨てる事は…とも思うのだ。同じ恋心を持つ女の子としては、渡す時の気持ちは十二分に理解できるから。

我ながらちょっと複雑な乙女心を抱えて、なおも両手の上にちょこんと乗っている可愛らしいラッピングの箱を眺めていると、突如として後ろからお腹にちょっと圧迫感が掛かる。ふい、と後ろを向いてみれば、不満そうな、退屈そうな表情で私を睨んでいる佐久間の顔がすぐそこにあった。どうやら私が腕にぶら下げたままのチョコレートをいつまで経っても渡そうとしない事に痺れを切らしてしまったらしい。…拗ねてしまっている表情が何とも子供っぽくて可愛らしい、なんて思っても口には出来ないのが残念だ。

「なあ、お前の早くくれよ。そんなのなんてどうでもいいから」

若干ふくれっ面になって私のお腹にぎゅーっと抱きついてくる佐久間はまるで聞き分けの無い子供のようだった。その表情に思わず顔を緩ませつつ、あまり機嫌が悪くならないうちに、と急いで彼へと作ってきたチョコレートの箱を渡す。

「はい、これ。…ハッピーバレンタイン、佐久間」
「ん」

渡した途端にころっと表情を変えて、お腹に回していた両腕を外す。がさがさと包みを開ける音に次いで、うまい、と言う嬉しそうな声が上がったのを聞いて、一先ず安心した。…一生懸命、作ってよかった。

「満足してくれた?」
「ああ、ありがとう。…で、いつまでその箱を持ってるんだよ?その辺に置いとけばいいじゃないか」

私がまだあの箱を持っている事を見咎めるが否や直ぐにめんどくさそうな、ちょっとだけ怒ったような表情で私の肩に顎を乗せてきた。髪が首筋にあたって少しだけくすぐったかったが、笑うのを何とか堪えてそっと両手に持っていた箱を元々あった場所に置いておく。そしてそのまま首を横に傾けて、佐久間の頭に頬を寄せて呟いた。

「いやあ…私、バレンタインに泣く方の人に回らなくって良かったなあ、と思って」

苦笑気味にそう呟いて更にぎゅっと寄りかかると、佐久間が再びお腹に手を回してきた。今回は、少しだけ力を抜いて緩やかに私を抱きしめる。そして、耳元で楽しげに囁く。

「俺も、バレンタインに本命を貰える方で良かった」


Happy Valentine!


真っ赤に染まった耳元に、見ないフリをしてあげようか。



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