ころん、と質素なラッピングしかされていない、自分で包装したチョコレートの箱を何となく転がす。これを渡す相手は勿論決まっているけれど、今更になってこんなもんでいいのか、とか思い始めている自分がいて、どうしようか迷っている最中だから。
何せ渡す相手が相手だ。こんな稚拙な…いや別に真剣に作ってないわけではないけれど、安っぽい材料と安っぽい包装用紙で包んだだけのお粗末なものを渡してもいいのだろうか。作った後になって段々と不安になってくるとは。

はあ、と溜め息を吐いて頬杖をついてぼんやりと浅黄色の長方形を見つめる。つん、と突けばころり、と中でチョコレートの塊が動く。…きっと、彼はこんなちゃっちいのなんかとは比べ物にならないくらいの出来の良いモノを貰うんだろうなあ。何か、切ない。

「…何か切ないなあ」
「何がだ?」
「ふえっ!?」

溜め息と共に言葉として外へ吐き出してしまえば、後ろから今想像していた人の声が聞こえてきて、思わず妙な声を出してしまう。慌てて後ろを振り返れば、楽しそうな表情をした鬼道が小脇に色々と詰まった袋を抱えて立っていた。…何時の間に。

「どうした、さっきから溜め息ばっかり吐いて。お前らしくない」
「むー…私だって悩んだり溜め息吐いたりする事だってありますー」
「そうか」

むくれた表情の私に、ふっと口元を緩めた鬼道はつかつかと私の机まで近づいて、そっと私が置いたままにしておいた浅黄色の淡白な装飾しかしていない箱を手にとってしまった。

「わ、ちょっと、それはっ!」
「何だ、俺にくれるんじゃないのか?…まさか、他の男に渡すんじゃあるまいな?」

慌ててそれを取り返そうと手を伸ばす私をあっさりと遮って、彼はなお楽しげな顔でそんな事を言う。他の男なんて、そんな。そんな人いるわけない。そう思いつつ手を伸ばし続けていたけれど、そのうち諦めて手を下ろす。背の高さが違うせいで彼がその気になれば私は触れる事さえ出来なくなってしまうのだから。その代わり、思いっきりふくれっ面をしたら、鬼道は笑いながら私の頭を撫でて言い放った。

「ありがとう、有難く貰うぞ」
「…そんなんでいいの?あんまり、凄いのとか作れなかったし、ラッピングも平凡だし…」

何だか決まりが悪くなって、ぼそぼそと私が呟くと。鬼道は優しげな笑顔で言い切ってきた。

「お前から貰えるなら、どんなモノだって嬉しいさ」


Happy Valentine!


その言葉に、思わず鬼道に正面から抱きついてしまった。



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