しん、と静まり返った公園には、俺と斉茗の2人しか居なかった。秋風に似た寂しさを伴う沈黙。薄暗いベンチの周りの僅かな光でも、俺の言った言葉に対する彼女の驚きが伝わってくる。…そりゃあそうだろうな、だって今まで彼女は俺では無く円堂をずっと“そういう”対象として見ていたんだから。
斉茗の薄い唇が震えて、戸惑いを顕わにしていた。薄く開いたり閉じたり、とせわしなく動いて言葉を発そうとしてはやめての繰り返しを、まるで他人事のように見つめる。

「…あの、…私…」
「円堂が好きなのは、十分わかってる」

いつもよりも細い声。か細い頼りない声音で、戸惑いの表情でこちらを見つめる彼女の、綺麗な碧の瞳をまっすぐ見返す。俺の気持ちに偽りは無い。…少しだけ、彼女の弱っている部分に付けこんでいる事に対して、呵責の気持ちはあるけれど。
けれど、それを理解できないままなのか…斉茗はますます分からない、という表情で俺を見つめてきた。一途に、ひたすらに円堂だけを見つめ続けてきた彼女には、そういう事は少し理解できないのだろう。

「…それでも、俺は気にしない。…円堂が好きなままでいいんだ」
「…でも…それは…」

それは、と何度も呟く斉茗の顔にそっと手のひらを持ち上げ、頬を撫でる。俺が触れた瞬間、彼女はまるで電流が流れたかのようにびくり、と肩を震わせた。それに若干、傷付きながらそれでも何も言わずに彼女の答えを待つ。人差し指と親指でそっと彼女の頬の上に円を描くように何度も何度も撫でながら、彼女が唇を開くのを待ち続けた。

「私、…私、ずっと守の事、好きだったの。…本当に、大好きだったの…」
「ああ」
「…これからも、きっと、ずっと好き、だと思うの」
「…ああ」

薄い唇から紡がれる言葉は、俺にとっては少しだけ、辛い言葉。分かってる、例え叶わないと知っていても必ず彼女は円堂を見つめ続ける事ぐらい。初めからわかっていた事だ。
碧の瞳に薄い涙の膜が張りつめ始めているを眺めながら、その次に出てくる言葉を待った。…その涙を、彼女の恋慕と共に拭いさってしまいたい、そう願いながら。

「…それでも、良いの?私は…自分が寂しいから、風丸くんの優しさに甘えてるんだよ?…風丸くんは、…私に利用されてるようなものなんだよ…」

言葉と共に、遂に溢れてしまった涙。瞳から零れた冷たいひとしずくが、頬に置かれていた俺の指を徐々に濡らしていく。

「…それはちょっと違うかな…俺も、多分斉茗の弱い部分に付け込んでるから」
「…」
「円堂が好きな斉茗を、好きになったんだ。…勿論、その感情が俺に向けばいいな、とは思う。…でも、斉茗がそんなに思いつめる事は無い、…まあ、あいこだって思ってくれれば良い」

頬にあった指先を身長に下睫の方まで持っていき、下睫をなぞるように溢れる雫を拭う。冷たい、けれど暖かい。それをずっと繰り返していたら、暫くして彼女の手が俺の指先を遠慮がちにそっと掴む。小さな、小さな手だった。

「…ホントに、いいの?いっぱい、傷付けるかも、しれないよ…?それでも、ホントにいいの?」

まるで幼子が母を求めるように頼りなく、また完全に俺を頼っているような、そんな表情。彼女の指先は震えていて、俺の指を掴んでいるとは言っても本当に形だけ、掴んでいるような、そんな弱弱しいものだった。
その細い指をぎゅっと強く握って、…俺は頷いた。心の呵責は、いつのまにか消えてしまっていたから。

「ああ。…ありがとう、斉茗。これから、よろしく」

きっと、その時彼女に向けた俺の顔は、喜びで溢れていたように思う。


背中合わせの感情を


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