おとこのこ、だったら、なんて、昔から私が考える空想。私が男の子に産まれていたなら、きっと守の助けになれていたんだろう。
いつも底抜けに明るくて、人間の汚い感情を知らないの様にいつまでもどこまでも純粋な守は、いつだって私に優しくしてくれた。物心ついた頃からどちらかというと引っ込み思案で、弱虫で泣き虫だった私の手を引っ張っては外へ連れ出しては一緒に遊んでくれた。…最も、遊ぶなんていっても彼の遊びは常にサッカーだけだったけれど。
陰気な性格のお陰でろくに友達がいなかった私にとって、守はまさに太陽の様な存在だった。彼はいつだって私を守ってくれていて、私はいつでも守られることしか出来なかったのだ。

だから、いつでも思ってた。―私が、男の子だったなら。男の子だったなら、きっと彼の助けになれたのに。ううん、助けになるように何でもしたのに。守られるだけじゃなくて、彼を守ってあげる事だって出来たのだろうに。…結局、私はどんなことをしても最終的には守に助けられてばかりで、きっと重荷にしかなれないのだろう。私だって、守に何かを返してあげたいのに。

「いいぞー!その調子だー!!」

今日も元気に叫んでいる守の姿をベンチから見つめる。サッカー部のマネージャーに誘ってくれたのも守だった。手先だけは昔から器用だったし、幼い頃から多少なりとサッカーに触れていた私はそれを快く引き受けた。…何より、これで守に何かを返せると思ったから。

「ふふ、今日も元気だね、円堂くん」
「そうだね…まあ、元気印の守だから」
「元気印…あはは、本当に!円堂くんらしいね」

私の隣で笑う、秋ちゃん。私の、数少ない女の子のお友達。サッカー部のマネージャーになったから、彼女と知り合って、友達になれた。彼女は本当に可愛らしいし、気も利くし、家庭的だし…女の子なら誰でも憧れるだろうなって言うくらいの、良い女の子。私みたいな浮いた人間とも、上手く付き合ってくれて、本当に嬉しかった。
…そして、彼女の優しさや暖かさに触れれば触れるほど、私はどんどん惨めにもなっていった。

「よし、皆休憩!!」

守の号令と共にぞろぞろと選手の皆がベンチに向かって歩いてくる。それを見て私達マネージャーもそれぞれ選手たちに渡すドリンクやタオルを準備し始める。…その際に、とん、と私は秋ちゃんの背中を軽く押した。その行動が、自分の首を絞めることなんて、分かりきっているはずなのに。

「…ほら、守が来るよ。タオルとドリンク、渡しに行ったら?」
「えっ!?…え、もう、やだ栞ちゃんったら…!」

そう言った途端、顔を真っ赤にして慌てふためきながら守の方へと駆けていく秋ちゃんの後ろ姿をじっと見つめて、一つ息を吐く。若干の顔の赤みを残したまま、守と話す秋ちゃんと、それに照れたように返事をしている守。…お似合い、だ。2人とも。
世話好きで、お母さんみたいに優しい秋ちゃんと、大らかで人が良くて真っ直ぐな守。
サッカー部の皆も、何だか微笑ましげにそれを見守っていて―思わず涙が出そうになる。…分かりきっていたことだ。分かっていた、事なのに。何故、こんなにも哀しいんだろうか。

「…大丈夫、か?斉茗。…悲しそうな顔、してるぞ」
「風丸くん…」

そうっと、1人立ち尽くす私の傍に最近知り合った陸上部からの助っ人の風丸くんが近寄ってくる。慰める様に優しく肩を叩かれて、頬に一筋だけ、冷たい感覚が走った。

「…斉茗…?」
「…大丈、夫…大丈夫、だけど…」

でも、つらいの。そう呟いた途端、彼の意外と大きな手のひらがあっという間に私の視界を覆ってしまう。驚いてその手を外そうと自分の手を彼の手にかけたら、彼は何故か苦しそうな声音で囁いてきた。

「…見るな。辛いなら、見なくてもいいから」

その切なさと、優しさで溢れた声音に、留めていたはずの涙が一気に堰を切って溢れ出す。溢れた涙が風丸くんの手に触れて、少しずつ、流れていくのを感じた。
暖かい空気が流れるベンチの、誰も見ていない片隅で声も出せずに静かに泣く私と、風丸くんを包む空気は、何故だか少しも温度を感じる事が無かった。


こんなにも、苦しいのに


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