思えば、初めて出会った時から何処と無く惹かれていたのかもしれない。透き通った碧の瞳で円堂を見つめる表情とか、同じマネージャーの木野や音無とはまた違った大人しげな微笑とか。そういった彼女を彩る様々なモノに、惹かれていたのかも、しれない。

円堂に請われて助っ人として入部することとなったサッカー部。自己紹介の時に誰よりも先に目に入ってきたのが円堂の隣に影のように佇む、胸元より少し上まで伸びている碧の髪と同色の瞳を持つ、パッと見て可愛いとも綺麗とも言えず、かといって造作が悪いという訳でもない平凡な外見の女の子。しかし、平凡な容姿をしている筈の彼女から何故だか目が逸らせなくなって、円堂が部員の紹介をしてくれているのも耳半分で聞いてしまっていた。

「…んで、最後にこいつ!俺の幼馴染でマネージャーの栞だ!すっげー頼りになるんだぜ!」
「…斉茗栞です。よろしくね、風丸くん」

そう言って笑う彼女の顔に、差し出された白い手に、不思議と熱が上昇してくるのを感じた。甘やかな毒の様に体中を血液が一気に逆流していくような、そんな錯覚。頭の中で何故だか警鐘が鳴るのが聞こえる。けれどその警鐘とは真逆に、その感覚に俺は魅了されてしまった。

「ああ、よろしく、斉茗」

初めて触れた手のひらは、温かくて優しい感触がした。…何処となく冷たくて、よそよそしい感じも、同時に。

それから自分が無意識の内に彼女を目で追っていることに気付いたのはいつだろうか。彼女とはクラスが違ったから出会えるのは部活の間だけ。練習中はきちんと練習に集中しているつもりだ。というか、目を逸らしている暇なんか無い。サッカーするのは俺が想像していたよりも遥かに大変で、しんどくて、…でも、楽しくて仕方ない。陸上ももちろん楽しかったが、サッカーは何だかそれ以上の楽しさを感じさせてくれた。

「お疲れ様。…はい、タオル」
「あ、…ああ、ありがとう斉茗」
「どういたしまして」

そういって微笑んだ彼女の顔に思わず見惚れる。他のマネージャー2人と違って明瞭快活と言った風な笑顔では無いが、深く、落ち着いた、苦笑に近い微笑。その笑い方に、何処と無く目線を吸い寄せられる。

休憩中や終わった後の片付けをしている時は、気付けば必ず目で彼女―斉明の動きを追っている自分がいた。…そして、大体その目線の先は円堂と仲良さそうに離している彼女の姿があるのだ。幼馴染であるだけはあり、彼女と円堂はよく一緒に行動しているのを見受けられた。2人の時もあれば、木野と円堂と彼女とが一緒にいることもあった。円堂の周りには割と人がたくさん集まることが多かったが、どんな時でも必ず彼女は円堂の隣に影の様に佇んで微笑んでいるのだ。…そして、その光景を何度か見るうちに、俺はだんだんともやもやとした微妙な感情を抱え込むようになり始めた。彼女が円堂に向かって笑顔を向けるたび、言葉を掛けるたび、近寄るたびに、その正体の分からないもやが一層深く、色濃くなるのを感じていた。

―そして、円堂の傍で浮かべられた微笑が、普段俺達に向けられる笑顔と違う感情が込められていると気付いた時、俺は同時に気付いてしまった。
俺は彼女が好きなのだと。そして彼女は円堂の事が。
…俺の初恋は、どうやら苦味しか俺にもたらしてはくれないようだ。


初恋の味は苦すぎた



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