大切に自分の懐に抱き込んだ彼女。時間を掛けて、ゆっくりで良いから自分を視界にいれてほしい、そう望んでいた。…そう、別にそう急いてはいなかったのに。

(俺が、無理をさせてしまったのか…?)

まさか円堂を忘れる、意識しないようにする、なんていう言葉を彼女の口から聞くなどとは夢にも思っていなかった。
あれほど円堂を想って泣いていた彼女の顔が一瞬頭を過る。俺を見つめる苦笑や、先程までこの腕の中に収まっていた申し訳なさそうな、瞳に滴を貯めた顔。

…知らず知らずの間に俺は、彼女に無理を強いていたのかもしれない。
少し冷静になって考えてみれば、そんなことすぐにでもわかるはずだ。

人一倍、他人の些細な心の機微を知ろうとする彼女は、1人でいるときに悶々と悩み続けていたに違いない。
円堂を想っているのに、俺と付き合い続けるのは良くない。だから、円堂への想いを断ち切ろう。…こんなところか。

「…はは…バカみたいだな、俺は…」

彼女を想っていたわりには、何と浅はかな事か。無理はさせたくないとは口ばかりで、その実彼女に無言の圧力をかけていたのだ、自分は。

最初、一目見たときに感じたどこか惹き付けられるかのような感覚。そして、その後にうっかり見てしまった涙と苦しそうな泣き顔が、やけに印象的だったのを今でも覚えている。それが円堂を想っていたからだと知ると、円堂に仄かな嫉妬を抱くと同時に彼女に対して強い庇護欲を感じた。
絶対に泣かせない、悲しませたくない。だからこの手で守ろうと、そう思っていたのに。
結局、苦しませて無理矢理こちらを向かせただけだった。…これでは、本末転倒だ。

「…ごめん、ごめんな、斉茗…」

溢れるのはただただ、謝罪のみ。好きだった、大切だった。愛してると言うにはまだまだ幼い思いだったけれど。

それでも、この想いだけはホンモノだと胸を張って言える。…だからこそ、これ以上彼女を傷つけないようにしなければ。


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