彼女の様子が、少し変わったように見える。今までは円堂の姿が見えれば無意識に目で追い、声が聞こえれば無意識に会話に耳を傾けていた。…あんなにも、意識していたのに。
一体どうしたのだろうか。

「…斉茗、最近何かあったのか?」
「…え、…」

いつもと同じく、夕日を背に2人で下校しながら何気なくを装って彼女にそう聞いてみる。…ぴくり、と揺れる肩が、今の彼女の様子を充分に伝えていてくれた。
…やはり何かあったのだ。

「…何でも良いんだ、何かあるんだったら…話してくれないか」

いつも、控えめに俺の後ろを歩いてくる彼女の右手をそっと握る。小さくて冷たい、小刻みに震える手。俺を拒絶しようとしているようにも、俺を受け入れようとしているようにも見えた。
全てが知りたい、なんて俺だけのエゴ。だけど、それでも彼女の事ならばどんなことでも知りたかった。

「…実、は…」

薄桃色の唇からこぼれた言葉に、彼女は一体何を思っていたのだろうか?

***

苦しい、苦しい。でも何処かで気が楽になったのを感じていた。守に言った言葉や、自分が今思ってること、今からどうしたいか。正直にすべてをさらけ出した。
風丸くんは黙って、時々相槌を打ちながらも聞いていてくれている。…本当に、優しい人。そんな優しい人に、自分は今まで嫌な思いをさせてしまっていたのだ。

「…ごめんね、風丸くん」
「…何がだ?」

継いで口を出る言葉に、思わず苦笑する。…自分はいつでも彼に対して謝ってばかりだ。仮にも付き合っていると言うのに、これほど相手を傷付ける女など、私以外にきっといないだろう。
私の謝罪の意図が分からない風丸くんは、きょとんとした表情で私の様子を窺っていた。

「私、ずっと風丸くんを傷つけてた…自分の未練の為に、風丸くんを利用して」
「…」
「ホントに…ごめんなさい。…私の我が儘を聞いてくれて、ありがとう」

しっかりと彼の目を見つめて、一言一言を自分に刻むようにしっかりと言う。…どうか、伝わりますように。陳腐なことしか言えないけれど、今の私を知ってほしいと願った。

「…そっか、…こっちこそ、ありがとう。…これからもよろしくな」
「!…うん!」

そっと伸ばされた手が私の頭に触れ、壊れ物を扱うように優しく撫でられた。心地好さに目を細めていたら、そのまま抱き寄せられる。彼の首筋から香る微かな汗の香りと、どこか清涼な香りに目を伏せながら、私は安心しきって彼にもたれ掛かった。
…すべて解決した、そう思い込んでいたのは自分だけだと、夢にも思わないまま。


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