「聞いたぜ、風丸と付き合い始めたんだってな!」
「…守…」

帰ってみたら何故か私の部屋に守がいた。大量の勉強道具を持っている辺り、彼は勉強を教えてくれ!という意図でここに来たのだろう。

「守、その山のように積み上げられた問題集の山は?」
「ん?あー…補習になっちまってさ!」
「…何で私に?秋ちゃんがいるじゃない」
「秋は今日用事があるらしくてさ!!明日までなんだ、期限」

な、頼むよ栞!
顔の前で手を合わせて苦笑する守。…断れるはずなんてなかった、他ならぬ彼の頼みだから。
1つ返事で了承すると、彼は嬉しそうにいつもの調子でサンキュ栞!と笑う。
…私はどうしても、彼を忘れられないのだろうか。そしてこれは、風丸くんへの裏切りなのだろうか?

***

守の勉強は、思った以上に早く片付いた。大方は理解していたらしい、珍しいことだ。2人して一息ついていたら、不意に守が口を開いた。

「なあ、良い奴だろ、風丸」
「…うん。凄く優しい人だね」

そう、風丸くんは本当に優しいのだ。だからこそ申し訳無いと思う。付き合い始めてから一緒にいて、彼の事を好きだと思い始めた気持ちに嘘は無い。実際に、彼と行動を共にしているときは確かに安らいでいられるのだ。…例えば、守と秋ちゃんが仲睦まじくしているのを見ても、風丸くんの側にいたらあまり苦痛を感じなくなっていた。

けれど、やはり守を目の前にしたら以前と変わらず心が痛い。風丸くんには感じない痛みを感じる…私はいつまでこの人に捕らわれ続けるのだろうか。…否、私から想いを絶ちきらなければ、いつまでもこのままだ。分かっていた、けれどその事から目をそらし続けていただけなのかもしれない。…私は、逃げていたのだ、きっと。

「…」
「?栞?どうしたんだ?」

黙って目を伏せていたら、すぐに守が心配そうに顔を覗き込んでくる。この仕草も、昔から変わらないもの。優しくて優しくて…でも決して手に入らないもの。…でも、きっと変わらなければいけないものでもあるのだろう。
昔と今では、違うことだってたくさんあるのだから。

「…守」
「ん?」
「今度から、ちゃんとこういう事は事前に秋ちゃんに言うんだよ」
「?…ああ!分かった!」

状況を読めていない守の明るい笑みを、わざと見えないようにまた目を閉じる。…これで、最後。守の事をきっぱり忘れなくちゃ。ちゃんと私を想ってくれる、風丸くんを見なくては。

だから、これでお仕舞いだよ、守。
“幼馴染み”という曖昧なラインを壊してしまおう。もう二度とこんな惨めな想いをしないように、真剣に風丸くんと向き合うために。

「…じゃ、俺もう帰るな!またな、栞!」
「…バイバイ、守」

またね、とはもう言わない、…言えないよ。
…ああ、何故だか風丸くんに会いたくて堪らないよ。


終演を演じた


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