付き合う、って言うことは、お互いが好きあっているからこそ成り立つ関係だと思っていた。恋人になるってこと、だって思ってた。…でも、私と風丸くんの関係は少しだけ違っていたから、だから、この曖昧な関係をなんと言えばいいか、分からないまま。
風丸くんは優しかった。優しすぎると言えるほどに、私を大切にしてくれている。それが分かってしまうから、余計に申し訳なかった。
…だって、私はまだ、守の事が好きなままだから。一番は、風丸くんじゃないから。

「…ごめんね」
「ん?どうかしたのか、斉茗」
「…ううん、何でもないよ」
「そうか?…少し顔色が良くないな、具合でも悪いのか?」

そっと額に当てられる、男の子にしては華奢な手の感触に目を閉じる。私よりも僅かに高い体温が心地よい。きっとそう感じさせてくれるのは、風丸くんの優しさがあるからこそなんだろう。
ふわり、と風に合わせて舞う綺麗な水色の髪に手を触れさせれば、微かに香る甘い香りと、汗の匂い。その香りが何故だか私に安心感を与えてくれる。髪を触られた風丸くんは一瞬驚いた顔をして見せたけれど、直ぐに柔らかく笑ってどうしたんだ?と訪ねてくる。

「髪…綺麗だなあって思って…」
「髪?…ああ、よく言われるけど、実は手入れとかしてないんだよな。めんどくさくてさ」
「長いもんね…乾かすのも大変でしょう?」
「まあな…。髪と言えば、斉茗も髪の毛綺麗だよな。すごく手触りが良い」
「…ありがとう」

どきり、と心臓が動く。
…髪。昔、守が褒めてくれた。色も綺麗だし、手触りが良いから好きだと。
だから…叶わないと知りながらも髪の手入れだけは欠かさなかった―欠かせなかった。今思い返せば、何と浅ましく短絡的な思考だったのだろうか。どんなに取り繕ったところで、無駄だと言うことくらい分かっていた筈なのに。

「ねえ、風丸くん。…私の髪…綺麗な方が好き?」
「ん?うーん…別に今のままで十分だと思うけど」
「そう、かな…?」
「ああ。…でもまあ、気を使うのは大事なことだと思うぞ」

目を細めて、愛おしむような柔らかな笑みを浮かべた風丸くんの優しさに、少しだけ救われた気がして…少しだけ、申し訳ない気分に駆られた。―そしてその、次の風丸くんの一言でその気持ちが更に重く私にのし掛かってきた。

「…俺は、ありのままの斉茗が好きなんだ。…だから、あんまり気を使わないでくれ」

ごめんね、私の気持ちが変わらないばかりに、風丸くんの気持ちに皺を寄せるような事しか言えなくて。
…けれど今は、ただただその優しさに溺れる事で虚しさを埋める事しか出来ないと言うのも、また一つの事実で。

…もういっそ、私の好きな人が風丸くんであれば、こんなに苦しまずにすんだのかな。


1人分の葛藤を手に


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