※風丸視点

その日は結局、あちこちのエリアでチョコレートを配ってあるく円堂の姿を見かけただけで、特に本命らしい本命を見つける事は出来なかった。彼女が渡していたどの袋も大体均等な大きさで、色やリボンがそれぞれ違うけれど全て中身は同じものらしかった。
…と言う事は、俺たちイナズマジャパンに本命が!?という空気が俺たちの間で広まっていたけれど、結局彼女の口からはその本命が明かされる事無く、あっという間にバレンタインデーの今日この日は夜になってしまっていた。

「はい、これは私から皆に!」
「どうぞ、皆さん。いつもお世話になってますから、頑張って作りました!」

久遠と木野が皆にそれぞれ彼女らが作ったであろうお菓子を配っているのを眺めながら、今日行動を共にした連中がそわそわとしているのを感覚で感じ取る。他ならぬ俺だって、やっぱり彼女が誰の事を本命と呼んでいるのか、気になってはいる。長年ずっと想ってきたけれど、そんな恋愛ごとになど微塵も興味など持たないように見える彼女。けれどこの日に本命にチョコレートを渡そうなどと言うなど、完全にそういう相手がいると断定してもいい。
…誰なのだろう、本当に。

「皆、わたしからも!はい、どうぞ!」

そんな事を考えてるうちに、円堂が皆の目の前で可愛らしくラッピングされた袋を配り始めた。後輩たちは楽しそうに、嬉しそうにそれを受け取っているし、今日の尾行組はそわそわしながらそれを受け取っている。

「…あの、紗玖夜さん?ひとつ聞いてもいいですか?」
「ん?なあに春奈ちゃん」
「えっと…あの、本命って…誰なんですか?」
「本命?」
「はい、作ってるって言ってましたよね、本命にって!」

全てを配り終わってなお、誰が本命だかを言わない彼女に痺れを切らしたのか、音無が単刀直入に円堂に聞き込んでいた。知らず知らず、場の空気が円堂の声に集中するかのように静まり返る。彼女の本命の云々にあまり興味を示していなかった他のメンバーも息を呑んで円堂の答えを聞こうと身構えている。

「わたしの本命は…」
「本命は!?」
「本命はね…」

意気込んで身を乗り出す音無に対して、円堂は珍しく悪戯っぽく笑う。そして皆に向かって言い放った。

「此処に居る、イナズマジャパンの全メンバーがわたしにとっての本命だよ!皆大好き!」

何時ものように太陽のように笑った彼女に、皆が気の抜けたような、やっぱり円堂だな、というようなどちらともつかない笑みを浮かべる。俺も苦笑しながら円堂から貰ったカラフルな色合いの袋を開けて、中身のトリュフを頬ばった。甘くて、かつ何処と無く苦いそれが口の中に広がるのを感じる。

このトリュフのように、甘くて苦い俺の初恋も、俺と同じ思いを抱える連中も、まだまだ先は長い。そんな事を考えながら、微笑む円堂の顔を眺めていた。


Happy Valentain!

まあ、こんなバレンタインもありなのかな、と思ったり、な。
バレンタイン・3

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