※Sun Like番外

「じゃあ行くよ、一之瀬くん。」
「うん、全力で脱が…じゃなくて、全力で勝つよ☆」
(今脱がすとか言いそうになったろ…。)

何故かサッカー部でやることになった忘年会。そして、何故か目の前で行われそうになっている野球拳。…俺は…俺たちは今、本当にどうしてこうなったか、説明してほしい現状にぶつかっていた。

何せ野球拳をしようとしているのは、一之瀬と…我らがキャプテン、円堂なのだ。

野球拳とは…忘年会などでよく行われるお遊びの一つで、じゃんけんをして負けた方が一枚ずつ衣服を脱いでいく、という…何というか、ちょっと思春期の俺たちの精神的にはつらいものがあるお遊びだ。

…それを、何故今この場で、しかも男子の一之瀬だけならまだしもこのサッカー部紅一点の円堂がやることになったのか。全ては一之瀬の言動から始まった。

「日本の忘年会と言えば…やっぱ野球拳だよね!てことで紗玖夜、野球拳やろう!」
「野球拳…?何それ?」
「じゃんけんして、負けたほうが一枚ずつ脱いでいく、っていうゲームだよ!」
「へえ…面白そう!いいよ、やろっか!」

…という軽いノリから始まったのだ。ていうか円堂、お前も女子なら嫌がれよ!負けたら脱がなきゃいけないんだぞ!…と、我らがキャプテンにつっこんではみたものの。

「え?負けなきゃいいんでしょ?じゃあ大丈夫だよ!」

…と根拠のない大丈夫で押し通されてしまった。負けたらどうするんだよ本当に…!

***

「あ…また負けちゃった…」
「よっしゃ、四連勝!そろそろヤバイね、紗玖夜!」

…おいこら、円堂、一体何処の誰が負けなきゃ大丈夫だって言ったんだ。思いっきり負けてるだろうが!もういい加減諦めろ!…と、どなってやりたいのをぐっと堪える。

野球拳を始めてから四回目、ずっと円堂は負け続けていた。最初にバンダナを外し、次に靴下を脱いで、雷門中の制服の上着を脱いで。今の彼女の格好は薄いキャミソールの下着にスカートという少し寒そうで、(主に俺たちへの)刺激が強い格好になってしまっていた。…一体次は何を脱ぐ気なんだ円堂…。そして豪炎寺、鬼道、止めるならしっかり止めろ。気になる気持ちは分からないでもないが、ちらちら見るな。
言いたいことが色々とありすぎて何処から突っ込んでいいやら…と思いつつ再度円堂に目を向けて…一瞬、呼吸が止まるかと思う感覚に陥る。

「…おい!円堂!何してんだお前!」
「え?何ってスカート脱ごうとしてるんだけど。」

何と、円堂がスカートに手をかけているのが俺の目に飛び込んできたのだ。いやいやいや、ちょっと待て!

「ばっおまっ…!止めろ円堂!頼むから!」
「紗玖夜ちゃん、早まるな!」
「キャプテン、お願いですから降参してください!!」

染岡や土門、果ては一年生たちまで一斉に叫びだしてもなお彼女はきょとんと首を傾げていた。…スカートに手をかけたままで。

「円堂…ゆっくりそのスカートから手離すんだ。」
「…何で皆して止めるの…?大丈夫だってば、」
「良いから!離してくれ俺たちの精神衛生のためにも!」
「だから、大丈夫だってば!だってほら、」

かちゃ、ばさり。
軽い布の音がして、はらり、とスカートが宙を舞って床へ落ちる。その瞬間一斉に皆が視線を逸らした。…1人を覗いて、は。

「…ちょっと紗玖夜、何短パンはいてんの。つまんないじゃんかー。」
「だって寒いんだもん。…ほらね、一郎太、大丈夫でしょ?」

一之瀬の不服そうな声と円堂の平気そうな声が聞こえて来たのを頼りに、恐る恐る目線をあげると、確かにかなり短いが短パンを着用しており、俺たちの予想したような姿にはなってなかった。

「…お前な…早く言えそう言うことは…。」
「だからあ、大丈夫だって言ったじゃない…。」

その場を一気に脱力感が漂う。何だかそこはかとなくがっかりした雰囲気も一緒に漂っていた。…認めたくは無いが、もしかしたら期待していたの…かもしれない。
何だか物悲しい男の性を再認識しているところに、再び円堂がにこやかに爆弾を投下する。…相変わらず目のやり場に困る格好のままで。

「ねえ、早く続きしようよ、一ノ瀬くん!」
「よし、次こそは!!」

その場の脱力感も何のその。円堂と一ノ瀬は元気だった。…主に一ノ瀬は嫌な元気の良さだ。
じゃなくて!!

「待て!!もうやめるんだ円堂!!」
「降参してくれ!!」

ここに来て漸く豪炎寺や鬼道が円堂を制止させようと声を張り上げた。やるならもっと早く止めてくれ、とは思ったが、取り敢えず俺もそれに便乗して彼女を止めようとした。…が我らがキャプテンは何と言うか…無敵だった。

「何言ってるの皆!!どんな勝負でも諦めたらそれで終わりなんだよ!わたし、絶対諦めないから!!」

グッと拳を握りしめてそう言い切った円堂は、限りなく輝いて見えた。…格好的な意味も含めて、だが。

―何事も全力で、のスタンスは確かにお前の長所だよ、円堂…。でもな…。

寧ろお前が負けたらもう、皆色んな意味で終わるんだよ…。

全員の心(一ノ瀬以外の)が1つになった瞬間だった。

***

「やったあ!!わたしの勝ち〜!!」
「こ…こんな…!!」

がくり、と項垂れる一ノ瀬。…オプションは、その…下着一枚のまま、で。
皆の哀れみと蔑みの視線を一身に受ける一ノ瀬はそうとは気付かず、一気に脱がされてしまったことにひたすらショックを受けている真っ最中だった。

「ほらね、一郎太、豪炎寺くん、鬼道くん!!わたし勝ったよ!!」
「ああ…。」
「そう…だな…。」

楽しそうに笑いながらこちらに近付いてくる円堂から微妙に目を反らしながらそう答える。…勝ったのはいいが、取り敢えずお前、何か着てくれ…。

結局その後、未だに勝ったことに喜ぶ円堂に何人かが(俺も含む)上着を被せて。
いつの間にか復活していた一ノ瀬が落ちていた円堂の上着を広いあげて着用し、それを脱がすためにその他の部員が逃げ足の早い一ノ瀬を追いかけ回して。

先ほどまであった緊張感は何処へやら。いつもの通りの賑やかさを取り戻した室内で、俺は隣に座る円堂に笑いかけた。



※良い子は真似してはいけません!!
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