※連載番外。


朝夕の気温が低くなり、段々と日が落ちるのも早くなってきた。
それに比例するように、勿論部活の終了も早くなり、変わりに下校時間が早くなる。
さっき練習を始めたと思っていたのに、直ぐに終了の時間が来てしまって、若干の物足りなさを抱きつつも帰り支度を済ませて帰路に着く。
向かい来る西風は確かな冷たさを帯びていて、秋が来たことを、今から冬が来るであろうことを告げていた。

「今日はちょっと冷えるね、一郎太。」
「だな…。ていうかお前寒いならもうちょっと厚着すればいいだろ。」
「日中は暑いんだもん。」

長く伸びる影法師を従えつつものんびりいつものように一郎太と一緒に帰り道を歩く。ひらひらと舞い落ちてくる木の葉の色は、夏の眩しく照り輝く様を思い起こさせるような爽やかな緑から、華やかでありながら何処か寂しげな風を思わせる紅色や黄色へと変化を遂げていて、中々様になる風景だと思わせてくれた。

「何か物足りないなぁ…もっとサッカーしたい!」
「仕方ないだろ、日が暮れるのが早いんだから。大体、これからみたいな季節の変わり目には不審者とか出るし危ないだろ。お前は一応女子なんだからもっとそういうことに気を配れよ。」
「うー…今から鉄塔広場行って特訓してこようかな…。」
「人の話聞いてたかお前…。」

一郎太の説教染みた話…というか完全なる説教を聞き流しつつもぼんやりと秋空を見上げる。
夕空の赤色から段々と深い青へ、紺へと緩やかに変わり続けている空の色は、恐らくもう直ぐにでも真っ黒へと染まりあがってしまうのだろう。その情景を見ていたら、不意に…そう、本当に突然、言いようもない寂しさが広がって、思わずわたしは息を詰めた。
秋や冬は日が短く、夜が短い。そしてその分、サッカーが出来る時間もまた減ってしまう。…そして、その分だけ。

「…皆といる時間も…減っちゃうんだよね…。」
「は?何言ってんだ円堂…?」

訝しげな声を出す一郎太は、自分の話をわたしが聞いてないと悟ったのか、若干苛立ったような声音も含まれていて、思わず肩を竦めて彼に目線を戻す。…怒られるのは御免だ。

「だから…部活の時間が短くなるだけ、皆と一緒にいられないなぁって思って。…何かね、寂しくなったの。」
「…そうか。」

相変わらずわたしよりも少し高い位置にある顔を見れば、丁度目線がかち合う。思わずさっきの発言が、自分があまりに幼いことを言ったと感じさせて、気まずさからすい、と視線をずらした。
そうしたら、隣からふっと苦笑を滲ませた笑い声がして。
そちらを見上げれば、わたしよりも少しだけ高い位置にある赤茶色の瞳を柔らかく和ませたまま、一郎太は穏やかに笑って言った。

「…なら、冬を通り越して春になったら、今よりももっと部活の時間が楽しくなるんじゃないか?…今、しっかり我慢しておけよ。」
「…確かに。…じゃあ、今は一郎太で我慢しよっかな。」
「何様だお前は。」

軽く胸を張って言えば、おどけた調子で軽く頭を小突かれた。
さっきまでの重たくて冷たい寂しさは何処へやら。笑いあいながらも帰路を先程よりも少しだけ早いテンポで歩いていけば、秋風が早く過ぎようとするかのように少しだけ強く吹いていた。


秋来ぬと、


(にしても寒い…!)
(だから厚着しろって。)
(そうじゃなくて、足が寒いの!…一郎太、ズボンとスカート、交換しない?)
(絶対に嫌だ。)


風丸

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