世界大会の初めの相手がイギリスのナイツ・オブ・クイーンであると決まったその日。相手方の開く親善パーティーとやらにイナズマジャパンが出席する事になった。…そして楓莉が付き添い兼保護者兼監督代行として付いていく事にもなっていた。

「…失礼します。今から行ってきます」
「ああ、選手達を頼…晃斎、その格好はなんだ」
「何って…スーツですが。…久遠さん、昼間から寝惚けないでください」
「寝ぼけてはいない。…まさかとは思うが、それでパーティーに行くと言わないだろうな?」
「ええ。…何か問題でも?公の場に行くには最適だと思いますが」

監督室が妙な空気に包まれた。どうやら楓莉大真面目にパーティーにスーツで行こうとしているらしく、久遠は思わず頭を抱えたくなる。
昔からそうだが、彼女はたまにこうして大真面目にボケをかますことがあった。…どうやら、今回も真剣に言っているらしい。

「…晃斎、お前用にと冬花に頼んで何枚かドレスを用意している。それを着ていけ」
「は?しかし…」
「いいから、言われた通りにしてくれ、いいな?」
「…はい、分かりました」

渋々ながらも楓莉は了承し、すっと監督室から下がる。その様を見つめながら、久遠は誰にも聞こえない溜め息を吐いた。

***

久遠冬花は久遠監督の実の娘。―とイナズマジャパンのメンバーには思われている。実際問題、親子なのだろう。…戸籍上は。

「え、と…楓莉さん、これ…」
「…ああ、ありがとう」

ぎこちなく差し出されるドレスを受け取る。首から紐で吊り下げるタイプの灰色と黒、深い藍色が使われている、殆ど装飾品が使われていないシンプルな物だが、選んだ人のセンスの良さが伺えるものだった。

「貴女が選んだの?」
「はい。…あの、気に入りませんでしたか?」
「いいえ、そんな事無いわ。…センスが良いのね、貴女」

少し困った様な顔をしている冬花に楓莉が微かに笑いかけると、彼女もほっとしたような表情になる。そしてさっさと着替えを済ましてしまった楓莉の所にいそいそと化粧道具を持ってきた。

「これ…音無さん達が使ってくださいって言ってました」
「…ありがとう、でも私は化粧はしないから結構よ」

そうなんですか?と首を傾げてこちらを見上げる冬花に頷きを返して、そのままじっと彼女を見つめる。

―やはり、似ていない。

楓莉は心の中で嘆息する。久遠と冬花に似ている点が無いのだ。古今東西、女の子は父親に似ることが多いと言うのに…。
そして、楓莉が思い返すのは10年前の事。
…あの時、彼は独身で子供が居るなどと聞いたことが無い。そもそも逆に、彼には浮いた話が1つもないと楓莉の同級生にさえ言われていた程だった。

そんな彼が、10年経った今、娘として連れてきた冬花。噛み合わない話だと紹介された時から思ってはいたが、ここまで顕著に感じた事は無かった。

「…あの?」
「…、ごめんなさい、ぼんやりしていたみたい…」

戸惑いの声を投げ掛けられ、慌てて謝りながら心の中で溜め息を吐いた。

―相変わらず、お人好しなんですね。

溜め息と共に吐き出した想いは誰にとも知られぬまま消えていった。


その理由はきっと、きっと


わかりづらいその優しさがある限り、私はきっと貴方を嫌いになりきれないのでしょうね。


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