FFIの最終決戦、コトアールとイナズマジャパンの試合。
久遠曰く「世界一マシなプレー」をしたイナズマジャパンが、世界の中学生サッカー界の頂点に立ち、その幕を降ろした。
喜び、また沸く選手やギャラリーを見て、そして自分が見てきた中で一番すがすがしい顔をしているのではないかとまで思われるような顔をしていた久遠を眺め。そして楓莉は覚悟を決めた。…全てに清算をつけてしまおうと。

***

ノックの音とほぼ同時に開いた扉。鬼道はもう、彼女の答えを伺わなかった。その顔に滲んでいたのは初めて顔を合わせた時とは違う、大人の表情だった。

「…おめでとう」
「ありがとうございます。監督や、貴女がここまで支えてくださったからです」

呟くように言われた祝いの言葉に、淀みなく答える鬼道の瞳は、いつもと違ってゴーグルに覆われてはいなかった。綺麗な赤い瞳が楓莉をまっすぐと捕らえる。その瞳は暗に答えを迫っているように思えた。

「…ごめんなさい」
「…それは何に対する謝罪ですか?」

一瞬曇る声音に、何故だか沸いてくる申し訳なさ。本当に自分は丸くなったと、彼女は実感せざるを得なかった。あれほど嫌っていたはずなのに。憎かったはずなのに。綺麗さっぱりと洗い流したかのようにクリアになった視点が少しだけ眩しい。思わず苦笑を浮かべてしまう。…やはり自分は、まだまだ子供なのだな、と。

「多分…あなたが思っていることに対する答え、かな」
「…そうですか…」
「でも…ありがとう。あなたには、大切な事を沢山教えられた気がする。…おかしな話よね、私、あなたよりも10も年上なのに」

自嘲気味、と言うよりはどこかそんな自分を茶化すかのような笑みが自然と彼女の顔に出てくる。鬼道はその顔を暫く呆けたように見つめ、はっと我に返って苦笑した。どことなく、納得しているような笑みだった。

「…いえ、何となく答えは分ってましたから。俺のほうこそ、すみませんでした。…少しムキになってた節もあるので、少し楓莉さんを困らせてしまったと思います」
「…そうね、少し困ったかもね。…でも、お陰で自分の事を見つめなおせたから…今回は特別に許しましょう」
「それはどうも。…でも、諦めませんよ、俺。何度でもまた言いに行きます」
「何度でもいらっしゃい、何度でも断ってあげるから」
「…そこは考えておくって言う事にしといてくださいよ…」

あの時の事がまるで嘘のように、部屋の中は和やかな雰囲気で包まれていた。きっと、同い年で同じ環境にあれば。もう少し彼と仲良くなれたのかも知れない。そう想像して、楓莉は少しだけ残念に思った。

「…これから、どうなさるんですか?」
「…まだ具体的には決めてないけれど…でも、教師になろうかって考えてるわ」

人に何かを教える事の難しさ。一人の人間と向かい合う難しさ。自分が憧れた人と同じ立場に立って、同じ視点で物を考えてみたい。そう思っての事だった。それは世界と言うフィールドに来て、イナズマジャパンの選手たちや久遠を見ていてずっと考えていた事だ。

「何だか、お似合いですね。…でもその為には教員免許が必要なのでは?」
「その辺りは大丈夫、大学の卒業と一緒に念のために取っているから。あとは採用試験を受けるだけ」
「…さすが、抜かりがないですね…楓莉さんらしいです」
「褒め言葉として受け取っておくわ」

くすり、と笑った彼女の晴れやかな表情に、鬼道も眉尻を下げて笑う。未練も情も、何もかもを捨て去ったかのように。この先、良き理解者、良き相談者としてお互いに信頼しあえるようになる日が来る。そう思えば心強い時間だった。


人はそれを出会いと呼ぶ


良い出会いが彼女を変えた。この先の未来に幸あらんことを。



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