不思議だった、こんなにも穏やかになっている、自分の気持ちや心が。いつでもどこかささくれていた心の、この落ち着きよう。あれほど憎んでいた影山に対しても以前程は怒りを感じなくなったり、何処か複雑な想いを抱いていた久遠への気持ちは段々と丸くなって行くのを感じている。…そしてそれは、目の前にいるイナズマジャパンのメンバーと出会えたからこそなのだろう。そう楓莉は確信していた。 ある種貪欲とも取れるほどの勝利への熱意を持ちながらも、一度負けてもそれをバネに出来るだけの強さも持ち続ける。それが出来るチームと共に行動したからこそ、自分は変われたのだろう。

「…憑き物が落ちたような顔をなさっていますね、楓莉さん」
「そう?…そうね、そうかもしれない。でもそれは貴方にも言えることじゃないかしら」

鬼道くん、と楓莉は珍しく機嫌の良さそうな声でそう呟く。事実、影山の呪縛から少し解放されているからだろうけれど。顔こそいつもと変わらぬ仏頂面だが、彼女の声音が弾む感覚を覚えた鬼道も固くしていた表情筋を緩めた。

「…それで?何を言いに来たのかしら」

影山の事は聞いた。試合に遅れた理由や、ジ・エンパイアとの試合が一日早まった理由も。鬼道が楓莉に個人的に会いに来る理由は何処にも無いはずだ。
そう思って微かに不思議そうな表情をしてみせた彼女に鬼道は苦笑する。

「お礼を言いに来たんです。昨日の楓莉さんの言葉に幾らか励まされたので」
「ああ…あの電話ね。別にお礼を言われるほどの事は言ってないわ」
「それでも、ですよ」

鬼道は一瞬、微かに顔を歪めた。が、すぐさまに穏やかな表情に切り替える。

「貴方の言葉に、救われたんです。何気ない、労りの声に」
「…どういう意味かしら?」

鬼道の言葉に、楓莉は一気に眉を潜めて訝しげな顔をする。…部屋の空気が、何かおかしい。妙に熱っぽく感じるのは、何故。
…その答えは、あまりにも衝撃的すぎたのだけれど。

「…俺が貴女へ恋慕しているから、とでも言えば納得してくれますか」

一瞬、沈黙。楓莉は本当に言葉の意味が分からなくなっていた。―彼は、鬼道は、今…何と言った?自分の事が、…何と?

「…分かりませんか?俺は貴女が好きだと言っているんです」
「…ふ…ふざけないで、鬼道くん。あなた何を、」
「残念ですけど、俺は本気ですよ」

呼吸が浅くなり、段々と自分の吐息が聞こえるようになる。
楓莉は座っているにも関わらず、目眩に似た感覚を覚えて仕方が無かった。


希薄なしあわせの時


真剣な瞳でこちらを射抜く彼は、確かに“男”の顔をしていた。


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