夜に掛かってきた電話は、楓莉の気持ちを更に沈ませていた。それでも、彼女はその気持ちをぐっと堪えてその電話にきちんと耳を傾けていた。…何となく、似ていたのだ。久遠がいなくなってからすぐ、彼を恨みに思いながらも必死で彼の姿を追い求めた、10年前の自分の姿に。

「…ミスターK、ね」
「はい。…恐らく、その男が影山だと思うんです…俺には、確かにそう感じられました」
「そう…で、そのチームKとやらとオルフェウスの試合に手を貸すと」

気だるげなその電話越しのその声に、鬼道は不思議と苦笑を漏らす事が出来た。何故、自分が彼女に…楓莉に電話をかけたかさえ、理解できないまま。殆ど衝動的に指が彼女の番号をプッシュしていたのだ。本来なら、久遠や響木に連絡しなければならない所を、何故か、彼女に。

「分かりました…久遠さんと皆には私から伝えておくわ。…気をつけてね」
「…楓莉さんが俺に気をつけて、なんて言ってくれるなんて、明日は槍が降りますね」
「…失礼な子ね、貴方は。私だって気遣いの言葉くらいはかけてあげられるわよ」
「すみません、つい本音が」
「それが失礼だって言ってるのよ。…全く、今度貴方には円堂くんの爪の垢でも煎じて飲ませてあげましょうか、少しは素直になれるんじゃない?」
「それは楓莉さんも同じじゃないですか?あなたが飲むなら、俺も飲んでもいいですよ」

不思議と、笑いさえも携えながらすらすらと続く会話。楓莉はこの他愛ない会話に心地よささえも感じていた。こんなに柔らかな気持ちになったのは随分と久しぶりな気がする。これまでの10年間、ずっと感じ続けていた刺々しい心地が和らいでいるように感じた。それを証拠に、自分の口元に笑みさえ浮かんでいるのが意識できている。…ここ何年か、心から笑う事など殆ど無かったと言うのに。

「…さあ、もう寝なさい。試合するなら、体調を整えないと」
「はい、長々とすみませんでした。楓莉さんも早く寝てくださいね、女性は早く寝ないと肌に響きますよ」
「…お気遣いありがとう、善処するわ。…じゃあね、お休みなさい」
「はい、お休みなさい」

ぷつり、と電話が切れる音の後に、ツー、ツーという無機質な音が受話器から聞こえる。その音を聞きながら、楓莉はふい、と窓の外に輝く月を見上げた。久々によく眠れそうだ、そんな事を考えて、口元にはやはり微かな笑みを浮かべながら。


穏やかな一夜


あの子と私、似たもの同士だから落ち着くのだろうか。ささやかな疑問はその胸の奥へ。


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