ユニコーンの宿舎は今日も賑やかだった。

「はい、ディラン、お疲れ様!」
「サンキュー!ユーもお疲れ!」

人目も憚らずに戯れ合うディランとユニコーンに一人しかいないマネージャーに目線をやって、思わず苦笑を溢す。こういうテンションの高さとか、スキンシップの過剰さとかを見ていると、ラテンの血を感じさせる。…いや、まあ、マネージャーの紗玖夜は生粋の日本人なんだけど。
何と言っても実兄が生粋の日本人なんだから。

「ちょっとディラン、今すぐ紗玖夜から離れてくれない?」

…来た。噂をすれば何とやら、ってやつだよなあ、と俺が妙に1人で納得していると、彼女の実兄…一之瀬がディランから無理矢理に近い形で紗玖夜を引き剥がした。

わー、お前それ、紗玖夜も痛いと思うぞ〜…とか思いながら傍観する。
きっと彼女の事を想うなら、割って入って仲裁すべきなのだろう。…が、俺も我が身が可愛い。巻き込まれたくない。

「ズルいよカズヤ〜!紗玖夜独り占めして!紗玖夜はミー達皆のマネージャーだろ!?」
「甘いねディラン、紗玖夜はユニコーンのマネージャーであると同時に俺の妹でもあるんだ!」
「だからって独り占めはズルい!マークもそう思うよね!」
「ああ。…カズヤ、紗玖夜はお前の妹でもあるが、同時にユニコーンのマネージャーでもある。独り占めはダメだ」

マークまでもが入ってきた。毎回毎回、よくもまあ飽きずに続けるもんだ、感心するな。
取り敢えず傍観のスタンスを変えないまま、端から見ればとても下らないこの論争を見守った。…あ、紗玖夜も退屈してきたな。一之瀬に抱え込まれた格好のまま欠伸をしている。

「ほら、紗玖夜、こっちにおいで。手伝ってほしいんだ」
「うん!…お兄ちゃん、離して。キャプテンのお手伝いしなきゃ」

マークが殊更優しい声で呼ぶのに、漸く自分に構ってくれそうな雰囲気を察知したのか、それまで退屈そうに一之瀬の腕に収まっていた紗玖夜がパッと嬉しそうな顔をして腕から抜け出そうとしはじめた。
…しかしやはり兄はそれを許さなかった。

「ダメ。マネージャーの仕事は終わったんだろ?キャプテンの仕事はキャプテン1人にやらせるべきだよ」

爽やかにばっさり切って捨てる一之瀬。ちょっと顔が輝いている気もしない。
対して妹は不服そうだ。
じたばたと兄の腕から抜け出そうともがく。…そして、その様子にディランとマークが参加し始めた。

「ほら、紗玖夜が嫌がってるじゃないか!」
「そうだな、早く離してやれカズヤ」
「ちょっ…2人がかりは狡いだろ!」

必死でもがく一之瀬だったが、やはり1対2では勝ち目がなかったらしい。あっと言う間に妹を拘束していた腕を外されてしまった。

紗玖夜は嬉しそうに兄の腕から飛び出して、マークの方に向き直っていた。…が、すぐにつまらなさそうに膨れっ面になって完全にアウェイな俺の所にてこてこ歩いて来る。

「…つまんない」
「だろうなあ」

唇を尖らせて俺を見上げる拗ねた表情の彼女を苦笑しつつ撫でてやれば、少し機嫌を治したらしい。そして再び始まった3人の論争に目をやる。全員が全員、完全に紗玖夜をそっちのけに争っている様を見て、溜め息が漏れた。
…お前ら、それは本末転倒だろうが…。

「つまんないなあ、あれが始まったら誰も構ってくれないんだもん」
「確かにな」

やはり退屈そうに兄達の言い争いを眺めながら呟く彼女に相槌を打ちながら心の中で溜め息を吐く。

―これからまた練習があるんだけどな…。

終わりの見えない、寧ろ一生終わらなさそうな稚拙な言い争いを紗玖夜と一緒に眺めながら、俺はこの何とも滑稽な言い争いが早く終わることを祈り続けた。


結果、エンドレス


華那さんへ捧げます。

7


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