褐色の肌に、深い緑の髪。片方しか見えない深い色を宿した瞳。
おおよそ、自分が相手にとって恐怖を与える要素を持っているなんて言うことはよくよく分かっていた。
…分かっていたつもりなのだが。

目の前で不思議そうに目をしばたかせている少女を戸惑いを含んで見下ろす。
自分のものとは明らかに違う華奢な身体、大きな瞳に柔らかい髪。どれを取っても自分と異なる身体を持つ少女は、今まで出会ってきた少女とも異なっていた。

「ねえ、ビヨンくん。どうしてそんなに不機嫌そうなの?…もしかして怒ってる?」
「いや…」

心配そうにこちらを覗き込んでくる彼女、円堂紗玖夜の頭をぎこちなく撫でる。心地良さそうにとろんとした目になる彼女に何処と無く癒しを覚えてそのまま撫で続ける。
ジャパンとの試合の後、偶々会った彼女は今まで出会ってきた誰よりも人懐こくこちらに寄ってきたのだ。

試合中は獣の様な俺達のラフプレーに食いついてくる様子を見せていたけれど、日常ではそうではないらしい。にこにこと笑いながら楽しそうに話す姿はどう見てもただの女の子だった。
そのギャップに少々戸惑いを覚える。あの時の彼女は俺と肩を並べられる程の迫力を秘めていたが、今の彼女はどうにも弱々しいイメージが残り、扱いに困るのだ。…触れただけで壊れてしまいそうな、そんな気がしてしまう。

「ねえ、ビヨンくん、サッカーやらない?」
「…は?」
「サッカー。ね、一緒にやろうよ!」

不意に楽しげに笑って俺の手を両手できゅっと握りしめた彼女が突発的にこんなことを言い出す。じんわりと低い体温が俺の肌を侵食して、何処と無く和らいだ気がした。

「…何故、サッカーなんだ?」
「だって、ビヨンつまらなさそいな顔してるもん。…試合中、凄く楽しそうだったから、サッカーしたらまた笑ってくれるんじゃないかなあって思って」

何処から拾って来たのか、両手でサッカーボールを持ちながらそんなことを無邪気な顔で言ってのける。
―笑ってほしいと言われたのは、初めてだ。

「ビヨンくんは笑ってた方が素敵だからだよ。」

戸惑いが伝わったからか、にっこりと笑いながら彼女は楽しげにそう言って優しく俺の腕を引っ張る。
初めての事が続きすぎて、つい流されてしまいながら、斜め前に見える彼女の笑顔を盗み見る。

今までがむしゃらに勝利だけを目指してきただけなのに。…なのにサッカーをやったら笑ってくれるかな、なんて。

何だか少しだけそんな自分がおかしい気がして。
それでも、今この腕を引く彼女の存在は存外心地好くて、思わず口端がつり上がるのを感じた。

そして、今まで引かれるがままになっていたのを逆に、彼女の腕を自分から引く。
壊れてしまわないように、優しく。…最も、彼女は強いから、こんなことぐらいで壊れはしないだろうけれど。

後ろを振り返れば、驚きながらもやはり楽しそうに笑う彼女がいて。こんなことがあっても悪くない、そんなことを思った、そんな昼下がりの一時の話。


まさに初恋の味の様


封妃さんに捧げます。

5


[*前] | [次#]