さらり、と流れる金色の髪に目を奪われて体の動きに合わせて揺れるそれに手を伸ばす。ふわり、と触れて、そのまま手のひらの中でふわふわとした髪をすいてみた。空気を含んでふっくらとしているそれは絹に似たような柔らかさを備えていて、思わず無言ですきつづける。

「…紗玖夜さん?」
「何?亜風炉くん。」

戸惑っているような亜風炉くんの声が聞こえる…が、それに生返事をしつつ髪を触り続けた。
…だってここまでサラサラでふんわりな髪なんて滅多にお目にかかれないんだもん。

それから一言も話さずに亜風炉くんの髪に触れていたら、彼はわたしの方にきちんと向き直って、困ったように首を傾げた。当然、それに伴ってわたしの手の中にあった亜風炉くんの金色の髪も自然と溢れ落ちてゆく。

「あ…。」
「…紗玖夜さん?」

思わず唇から漏れた名残惜しげな声に慌てて唇を塞ぐ。何処と無く呆れを含んだ亜風炉くんの声に一抹の気まずさを感じる。

「あの…ごめん…。つい…。」
「いや、別に構わないんだけどね。ただ…。」
「ただ?」

彼は何処と無く慈しみを含んでいるような目線でわたしを眺めると、すっと手を伸ばしてわたしの髪に触れる。
髪の手入れなんてあんまりしない(というか興味無いし)わたしのそれは、亜風炉くんのと比べれば何もかもお粗末なものに感じる。

指に引っ掛かることの無い通りの良さにしかり、痛みの無い毛先にしかり。
亜風炉くんのそれは、長さ的にも女の子のものと言っても違わないほど綺麗だった。

「ただ…そう、君が僕の髪にしか注目してくれないのはつまらないなと思って…ね。」
「え?」

一瞬、彼の言葉が理解できずにもう一度問い返す。

「だからね…僕の“髪”だけじゃなくて、“僕自身”を構ってくれると嬉しいな。」

笑顔のままとんでもないことをさらりと言い放った彼に思わず目が点になる。
頭が言葉の意味をきちんと理解する頃には、いつの間にか亜風炉くんの腕の中に半ば抱き込まれるような体制に陥っていた。

「え…え?」
「ふふ…相変わらず可愛い反応するよね、紗玖夜さん。」

身長差から必然的に彼の唇がわたしの耳の近くに来て、柔らかなアルトの声が耳に直接降りかかる。精神的に、ちょっと耐えられない感じになって思わず首をすくませると、くすくすと柔らかく笑われて少し恥ずかしかった。

「ね、あの…いつまでこの体制…?」

頬に熱が上ってくるのに耐えきれなくなって、絞り出すようにして出した声に彼は少しだけ考えるような素振りを見せた。…変わらずわたしは抱き込まれているけれど。

「そうだね…じゃあ、僕の気が済むまで。」
「…え!?」
「…なんてね、冗談冗談。」

騙されやすいね、なんて楽しげに喉の奥でひとしきり笑った後。

「じゃあ、10分。10分だけこうやっててもいいかい?」

先程より殊更に優しく、聞こえようによっては甘く響く声にそっと囁かれて、熱に浮かされるように頷く。

ありがとう、なんて極々自然に言われた礼に、何だか自分だけ惑わされているような感覚がして少しだけ悔しさを感じてしまう。

―だから、お返し。

心の中でそう呟くと、そろそろと自分の両手を彼の背中に回した。
…彼の胸元に顔を寄せてしまったからよくわからなかったけれど、亜風炉くんの頬がその時朱色に染まっていたのを知るのはまた、10分後だった。


響き渡る甘い音


りここさんに捧げます。

4


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