ぱちくり、という効果音がつきそうな勢いで目の前の円堂が瞬きした。驚いているのだろう、元々大きな茶色の瞳が殊更に大きく見開かれている。…さて、どうしたものか。

『ええか、イナズマアイスのところにおれや!時間厳守やで!』
…と、浦辺から呼び出され、言われるがままにイナズマアイスの店に行ったら、何故か私服姿の円堂に鉢合わせした。あちらも誰かを待っていたのだろうか、戸惑った様な顔できょろきょろとあたりを見回している。

「…一郎太、何でここに?」
「いやその…浦辺に呼び出されて…。」
「ええ…?わたしもリカちゃんと約束したの、お出かけしようって誘われて、ここで待ち合わせって…。」
「何…?」

意外な事実に思わず胡乱げにあたりを見回す。…これは、もしや浦辺に謀られたのか?

「…あ、そういえば…リカちゃんから一郎太に渡してほしいって言われてたものが…。」
「はあ?」
「変だよね、直接渡せばいいのにね。」

はい、と軽やかな声音で渡された小さなメモ用紙のようなものを受け取って、開いた。…曰く。

『せっかくうちが紗玖夜を上手く誘い出したんや、がっつりデートして来いや!男なら当たって砕けろ!』

ぐしゃり、という音と共にメモを握り潰す。…あいつ…こういう魂胆があったのか…道理で嫌に強引だったわけだ。ぎりぎりぎり、とメモを嫌な音をたててさらに小さく潰し、近くにあったゴミ箱に弧を描いて投げ捨てた。
一旦、深呼吸して円堂に向き直れば、彼女はまたも驚いた顔をしている。

「いいの?捨てちゃっても。大事なものじゃ「ない。」…そ、そうなんだ…?」

口許をひきつらせて笑う円堂に、浦部が来ないことを告げれば目を見開いて考え込みはじめ―再び口を開いた。

「じゃあ、とりあえずわたしと一郎太で一緒にお出かけしよっか?」

…相変わらず突拍子も無いことを突然言い出す奴で良かった。

***

「最終的には戻ってきちゃったね〜。」
「そうだな…。」

散々あちこちを歩き回り、ぶらぶらしていたら結果的にアイスの店に戻ってきてしまった。今はと言えば歩き回って小腹が空いたから、との事で店内にいるのだが。
店内には大勢のカップルや女性客が座っていて、何だか場違いな感じもしないでもないが、この際もう気にしないことにする。それぞれに注文したアイスを嬉しそうに食べている円堂の顔が見れたから、それで満足だなんて思っている俺も大概だと自覚しつつ、またぼんやりと彼女の食べている様子を眺めていた…ら。

「はい、一郎太、あーん。」
「…は?」

つい、と口元に差し出されたのは円堂の食べていたアイスが乗った小振りなスプーン。
困惑して円堂を見遣れば、楽しそうに彼女は笑っていた。

「さっきから見てたから…いるのかなって思って。美味しいよ、これ。」
「あ、ああ…ありがとう。」

あまりにも彼女が楽しそうにしているものだから、 何も考えずにそのスプーンを口に含んだ。…あ、確かに美味い。
そして、完全にアイスが口の中で溶けきった時、ふと気付く。

(…ん?今のって…。)

何も考えずにただ円堂に差し出されるままにアイスを食べてしまったが…今結構、恥ずかしい事をしてしまったような。

そこまで考えて、向かい側の円堂に視線を移す。そして、相も変わらず幸せそうな顔をしている彼女の顔が見て、脱力すると共に何だがどうでもいい気分にさせられてしまった。

…まあ、いいか、彼女が楽しそうにしているから。

そんな事を考えつつ、どうせなら俺も楽しもうか、と目の前の溶けかけたアイスにスプーンをいれた。


昼下がりの秘密の時間


來羅さんに捧げます。

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