日差しが柔らかく差し込んでくる昼時の窓辺に座り込んで、日向ぼっこする。何だか猫にでもなった気分だな、と思いながら、何処と無く気持ち良さそうにうとうとしている円堂に目をやった。
部活が休みの日曜日に偶々両親が出かけたため、昼飯を円堂の家でご馳走になった後、二人してフローリングに敷かれたふかふかのカーペットの上に座り込んでお互いに戯れるようにしてくっついた。
円堂は俺に突然抱きついてきたり、後ろに回ってポニーテールを解いて延々と俺の髪を梳っていたり、俺は俺で抱きついてきた円堂を抱き返したり、もはやチャームポイントとも言えるバンダナを取ってみたりとひとしきりじゃれあった後。

昼飯も食って腹が膨れ、しかも適度な温度と日差しの当たる箇所にいたせいか、段々と円堂の瞼が下がってき始めた。それと同時に動きも鈍くなり、まるで温もりを求めるかのようにぎゅっと抱きついてくる。まだ意識のほうまで持っていかれてはいないようだが、それも時間の問題だろう。
かくいう俺も円堂につられたのか、1つ欠伸をしてしまい。抱きついてきた円堂をしっかりと抱え込むように抱きかかえた。いつもはどちらかと言えば俺より低い体温の身体も、しっかりと熱を吸収していて暖かく感じる。

「んー…ねむいね…。」
「ああ、眠いな…。」

何処と無くふにゃふにゃとした声になりつつ俺にそう言う円堂に相槌を打ちながら、ふとした悪戯心に駆られて、顎の下の辺りにある白い頬に唇を寄せてみる。ふに、とした柔らかい感触がして、少しだけ、癒されたような気分になった。ゆっくりと何度も箇所を少しずつ変えて唇を当ててゆけば、円堂がくすぐったそうに身じろいで閉じかけていた目を半分くらい開けてこちらを見上げてくる。

「なに…?」
「いや…柔らかいなあと思って。」
「…ほっぺ…?」
「ああ。」

先程よりはしっかりとしてはいるものの、何時もの声と比べればまだまだ舌足らずな声に相槌を打ってもう一度唇を頬に寄せる。ふんわりとした柔らかさはやっぱり女子特有なのだろうか。そんな事をぼんやりと考えながら名残惜しむように唇を離せば、もぞ、と腕の中の円堂が動いた感覚がして。それからふに、と柔らかな感触を頬に感じた。
驚いてよくよく見てみれば、円堂が身を乗り出して俺の頬に自身の唇を押し当てている。

「…円堂?」
「…ん。」
「…いや、ん、じゃなくて。」

少しだけ…いや、大概驚いた俺には構わずに円堂は俺の頬から唇を離して、満足そうに笑ってもう一度俺の腕の中に戻る。その後直ぐに小さく欠伸をしてからもう一度目を閉じかけたのを見て、慌ててそれを遮った。

「おい、こら円堂。」
「んー…。一郎太もやわらかいね…。」
「…は?俺が柔らかい…?」
「うん…ほっぺ…やわらかかった…。」

ぶつぶつと呟くような小声でそう呟くと、ぐりぐりと軽く甘えるように俺の胸に頭を押し付けて、そのまま円堂は寝息を立て始めた。完全に眠ってしまったらしい…全く、こういうマイペースなところは相変わらずということか。
思わず一つ溜め息を吐いて、そっと彼女の唇が触れたところに手で触れる。微かにまだ彼女の温度が残っているように感じる箇所は、やっぱり円堂よりも少しだけ固く感じた。
すうすうと寝息を立てる円堂をもう一度ゆっくり眺めて、そっとその小さな唇に俺のものを重ねて。愛しさとか、嬉しさとかが胸を満たしてくれるようで、心地よくて。
唇が触れ合った瞬間、彼女の顔がふにゃりと笑った気がした。…今度は、彼女が起きているときにでもしようと、自身の唇を離して円堂の頭に自分の頭をそっと触れ合うように乗せた。

微睡む円堂に俺も少しだけ便乗してみようか、と思いつつ目を閉じる。腕の中の温もりが、いつまでもこの中にあるようにと願いつつ、微かに腕の力を強めて。
今のこの空間、俺たち二人だけの優しい楽園の中で、俺も何時しか円堂と一緒に眠っていた。


日溜まりユートピア

夜希さんへ捧げます。

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