※Sun Like番外編

甘くて優しい香りに誘われるかのように、目の前の小さな背中に抱きついてみた。
きゃっ、と細くて高い悲鳴が上がるが、まあ彼女は優しいからとりあえずは許してくれるだろう。
丁度目の前に見えた首筋に鼻を押し当てれば、俺の髪が当たってくすぐったいのか少しだけ身を震わせていた。

「…源田、くん?どうかした?」

恐る恐る、と言った風に首だけを捻ってこちらを見てくる円堂の顔を見つつ、なんでもない、と返せば彼女は首を傾げて見せた。

「何でもないって…何でもないのに抱きついてきたの…?」
「良い匂いがしたんだ。甘くて良い匂い。」
「匂い…?」

くん、と小さな音を漏らして彼女も自分の匂いを嗅いでいたが、直ぐに困惑した表情と共にこちらへ向き直った。

「匂いなんてしないよ?」
「するぞ。俺には分かる。…うーん、男には皆分かると思う。」

冗談めかして言ってみれば、彼女は更に首を傾げて「変なの」、と呟いた。そして早くも俺の頭を…正確には髪を弄るって言った方がいいのかな、そちらのほうに集中してしまった。…まあ、彼女に触れられるのは嫌いじゃないから別に構わないが。

慈しむようなその手つきに思わずうっとりして目を細める。…円堂にこうやって抱きついても良いような関係…所謂恋人同士になるまで苦労が癒されるかのようだ。

何度「好きだ」と言っても笑顔で「わたしもだよ」と返されるし(友達として、だが)、周りはライバルだらけだし。風丸、豪炎寺、鬼道、佐久間…数え切れないぞ真剣に。
しかしその中でも特に風丸は厄介だった。
幼馴染ということが強いのか、円堂は風丸を精神的な支えとしていて常に傍にいたし、彼もまた彼女に好意を寄せているせいかそれを許容していた。
呼び出すのも一苦労していたあの頃の俺が懐かしい。…本当に今の関係になれてよかった。

そっと円堂の白い頬に唇を押し当てれば、びく、と身体が動いた。…流石にまだ、慣れてないか。

「げ、源田くん…!?」
「悪い。…でももっかい。」
「ちょっと…!」

もう一度、柔らかくて心なしか甘い味がする頬に唇を当てれば、今度こそ本格的に彼女が慌てだす。
この反応では、やっぱりまだまだ唇は早いだろうなぁ。
少しずつ、慣れてくれれば。そんな思いを抱きつつ、俺はもう一度彼女の身体を抱きしめた。

one step and one step

結様へ捧げます。

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