※Sun Like番外編

きらびやかに着飾ったその空気は、何度経験しても慣れないものだ。…俺の後ろに隠れるようにして寄り添う幼馴染みはもっと辟易しているのだろう。
そして、目の前の人物から繰り返されるお誘いにも。

「ね、紗玖夜、あっちの方に美味しそうな果物があったんだ。一緒に行こうよ!」
「いや…今あんまりお腹空いてないから…。」
「折角なんだからさ、ちょっとだけ、ね!」
「う…一郎太…。」

助けを求めるかのように見上げてくる幼馴染の格好に無意識に目が行って、思わず溜め息を吐きたくなる。…誰だ、円堂にこんなドレス着せたのは。

FFI本戦に出場する選手たちが集うパーティが今夜行われる、というのを聞いたのが今朝方。それから正装をしなければならないという理由からマネージャーが三人組で嫌がる円堂を引きずって行ったのを見送ったのが昼頃。…そして、会場で落ち合って今に至る。
淡い色の胸元を強調するタイプのマーメイドドレスを身に着けた彼女はその普段とは全然違う自身の肌の露出を嫌がって俺の後ろに引っ付いて離れなくなってしまった。俺の影で自分の格好を少しでも隠そうとしているのだろう。

「あまり腹が減ってないものを食わせることも無いだろう?食べたくなったら自分で食べに行くだろうから、そっとしておいてやれよ。」

あまりにも必死な円堂に少しだけ同情して…っていうのは勿論建前で、こんな格好の円堂を他の奴にあんまり見せたくなかったから、俺ももはやしがみ付いているに近い円堂の体勢を咎めなかった。…が、何かと円堂に好意を寄せる奴はたくさんいるもので、先程から何人の人間を追い払ったか、もう数え切れないくらいになっていた。

「分からないだろう?行ってみたら案外食べられるかもしれないし。君は彼女をそれ以上痩せさせる気なのかい?」

大概の人間が追い払えば渋々ながら大人しく引くもんだが、この男…イタリア代表オルフェウスのフィディオ・アルデナだけは最後までしぶとく彼女を誘い出そうと躍起になっていた。
先程からずっとあの手この手で彼女を誘い出そうとしているが、言葉の端々に感じられる手ごわさに、俺は正直舌を巻いていた。
何と言っても流石はイタリア人、女性を褒めるのが上手い。尚且つ、女性が興味関心を持ちそうな話題を豊富に持ち合わせ、それを巧みに活用してくる。

強く俺の服を掴んでいた円堂の指先が緩みかけている、というのが、気持ちが傾きつつある何よりの証拠だ。恐らく、心中葛藤しているのだろう。

「ねえ、紗玖夜、俺がきちんとエスコートするからさ!」

そして極めつけとでも言わんばかりに爽やかさを滲ませて笑うフィディオ。…何だか今、ちょっと負けたような気分になった。悔しい。

…が、少し唇を噛みかけた時にくいくい、と控えめに袖を引かれる感覚にハッとして円堂を見下ろす。不安げにしている彼女の表情から、何だか昔を思い出して少しだけ懐かしい感じがした

「…一郎太、一緒に行こうよ。」

そして、彼女のこの一言。
…悪いな、今回は俺の勝ちみたいだぞ、フィディオ。

負けられない戦いがあるんです、だって男の子だから!

ネオン様に捧げます。

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