次にある試合はフットボールフロンティア地区決勝戦。相手は…あの、帝国学園。
豪炎寺くんの怪我も完治して、全員が練習に参加できるようになったのと、それから、何と遂にグラウンドの使用権が獲得できた。
今までは真面目に練習していなかったために他の部活優先となっていたが、決勝戦まで勝ち進んだことと、夏未ちゃんが裏で根回ししてくれたらしい。
本当に、夏未ちゃんには頭が上がらない。次の決勝で勝って彼女がしてくれたことを活かさなければ!

「本当に夏未ちゃんに感謝しなきゃね〜…。絶対勝たなきゃ、夏未ちゃん怒りそう。」
「夏未さんなら怒りそうだね!というより、“絶対勝ちなさい、これは理事長の言葉だと思って構いません!”…っていいそう。」
「言われそう…プレッシャーが…!」
「大丈夫だよ、紗玖夜ちゃん達なら!」
「ありがと、秋ちゃん。」

練習も終わり、秋ちゃんと二人で並んで帰る。夕暮れの風が冷たくて、練習後で火照った体にはちょうどいい涼しさだった。
今までの試合の事や、これから迎える帝国との試合について話しながら帰っていたら、前を向いていた秋ちゃんが突然大声を上げた。

「危ない!」
「え…!?」

あまりに切羽詰った声で叫んだから、わたしも驚いて秋ちゃんの視線を追う。その先には、トラックの運転手に叱られている土門くんの姿があった。

「土門くん…前を向いて歩かないと危ないよ?」
「紗玖夜ちゃん…!?あ…いや、ごめん。」
「どうしたの、ぼんやりして。」

一応注意だけはして、秋ちゃんと土門くんのやり取りを眺める。二人は幼馴染だって言ってたっけ。…わたしと一郎太みたいな関係なのかなぁ。

「…しっかりしないと、一之瀬くんに笑われちゃうよ!」
「!」
(一之瀬くん…?もう1人の幼馴染なのかな?)

知らない人の名前が出て、好奇心がうずく。…でも、その“一之瀬くん”の話が出た瞬間、話している秋ちゃんも、土門くんも動揺したような、悲しそうな顔をしていた。何も聞けなくて、開きかけた口を閉じる。

「…じゃあ、気をつけてね土門くん。紗玖夜ちゃん、行こう。」
「あ、うん…じゃ、土門くん、また明日ね。」
「…ああ、また明日ね。」

土門くんのほうに控えめに目線をやれば、彼は疲れたような、罪悪感に苛まれるような瞳でわたしを見返してきた。
…何か、悩みでもあるのかな、土門くん。

***

※土門視点

自分の気持ちがぶれてきているのに自覚はあった。
本当は鬼道や総帥に従って雷門のデータを帝国へと流すのが俺の役割。簡単に言えば、スパイ。
俺自身、帝国を出た時はそのつもりだった。…筈なのに。

―これからよろしく!
―いい調子だね、土門くん!
―ここ、任せたから!

頭を渦巻くのは、罪悪感と俺の考えを狂わせた、円堂紗玖夜の声。
彼女と出会って、接してから、俺の考えは段々と狂い始めた。

いつも笑顔が絶えない幼さを残す顔や、明るい言葉で皆を励ますその優しさ、女の子らしい、あまり脂肪も筋肉も付いてなさそうな細くて小さい体で必死でゴールを守ろうとする健気さも。
個人的には好感が持てて、協力してやりたい、と俺の考えを狂わせる切っ掛けの1つになったのだけれど。

何よりも、あの子の放つ、異彩な輝きに惹かれたのかも知れない。サッカーを全力で楽しんで、精一杯フィールドを駆けて。例えどんなことがあっても諦めずに何度でも立ち上がろうとするひたむきさ、真剣さ。
…あんな輝きは、アイツが居なくなって以来、何処へ行っても見られるものではなかったから。手を伸ばしたら、傍にいる。そんな安心感が、俺の決心を揺らがせたのだろう。



 


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -