※鬼道視点

静まり返る室内グラウンドで、俺の目の前では雷門中対御影専農中との試合が行われている。…最も、これは“仮”の試合ではあるけれど。実際彼ら…いや、彼女らと試合をしたなら、御影専農中の連中はともかく、雷門中はお互いに声を掛け合ったりしているからもっと騒がしく試合をするだろう。

バーチャルシステムが生み出す雷門中のデータから成り立つ試合でも、御影専農中のチームは正確に確実に相手の動きを予測しつつ、ある者はシュートを止め、ある者は相手を抜き去り、そしてシュートを決める。…点差は4-0。圧勝ともいえる差だ。

「いかがですかな、総帥。我が校のシステムは。これさえあれば…!」

御影専農中の監督が総帥に媚を売るように話しているのを横目で見つつもさっと整列するチームのメンバーを見下ろす。
見渡す顔全てが無表情。何ともつまらない、生きている感覚がイマイチつかめない様な連中だった。…そう、試合中でさえもその無表情を崩さない、まるでロボット、サイボーグであるかのようだ。

彼女なら…そんなのはつまらないというだろうか。
最近、決まって思い出す少女の顔がある。前まで思い出すなら小さな頃の春奈の笑顔だけだったと言うのに。
雷門中のキャプテン、円堂紗玖夜。弱小と呼ばれる中学校でも骨があり、尚且つ人をひきつけるような何かを持っているように感じられた興味深い人間。
俺よりも小さく華奢な体躯。恐らく殆ど肉などついていないような貧弱な身体つきで、俺たち帝国のボールを止め、どん底に近い点差でさえも諦めず、チームメイトを励まし続けたGK。
…何故か、忘れられない印象があった。今でも印象深く残っている。

「…雷門中を倒すことは害虫駆除であることと同じなのだよ。」
「…。」

…だからだろうか、総帥のこの一言が、やたらと気にかかってしまう。思わず違います、と反論しかけた口を塞いだ。

試合をする前の輝かんばかりの笑顔、試合中の真剣な顔、豪炎寺がフィールドに下りてきたときに見せた、僅かな安堵が入り混じる顔。
全てを覚えている。だから彼女らが害虫などとは、俺には到底思えそうになかった。

…とそこまで考えて、慌てて首を振る。
だからと言って、俺たちには総帥を批判するような権利は持ち合わせていないし、やはり彼女らは俺たち帝国からしてみれば弱者もいいところなのだ。同情など必要ない。
もやもやと浮き上がる疑問を振り払い、俺は御影専農のキャプテンを雷門へけしかけるようにして様子を窺うことにした。

…胸の内に秘められた、微かな疑問と痛みに、気付かないフリをしながら。



 


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