尾刈斗中との試合の次の日。
わたしはいつもよりも早く目が覚めてしまった。…フットボールフロンティアに出られる。それだけで気持ちが高揚して、中々寝られなかったっていうのが正しいところなんだけど。
「おはよー、お母さん。」
「おはよう。こんなに早起きなんて…珍しいわねぇ。まだ寝ててもいいのよ?」
さっさと身支度を整えて一階に下りれば、お母さんが台所に立っていた。時計を見ればまだ6時にさえなってない。…うーん、本当に早く起きちゃったな、わたし。
「んー…いいの。二度寝しちゃうと絶対起きられないから。…これ、刻むの?」
何処か心配そうなお母さんに笑いかけて、隣に並ぶ。お母さんの隣に並んで料理するなんて久しぶりだ。
何か言いかけたお母さんが諦めたように笑ってお願いね、というのを横目で見て、包丁を握る。
「フットボールフロンティアに出ることが決まったの。それで嬉しくってあんまり寝られなかったの。」
「…そう。」
無言の台所でわたしがそう言うと、お母さんがぴく、と肩を揺らした。
…やっぱり、お母さんはまだサッカーに対する嫌悪感が拭いきれてないんだ。
ちょっとだけ寂しい気持ちになって、唇を軽く噛む。
亡くなってしまったお爺ちゃん。何で亡くなったかっていうのは詳しくは知らないし、お母さんもそのことについてはずっとだんまりで、わたしは何も知らないに等しい。
唯一知っているのは、お爺ちゃんはサッカーのせいで死んだのではないか、というお母さんの見解だけ。
「…あのね、お母さん。」
「…何?紗玖夜。」
確かに、お爺ちゃんはサッカーに関わって亡くなってしまったのかもしれないけど。
でも、だからってわたしはお母さんにはいつまでもサッカーが嫌いでいてほしくない。
好きになれ、とは言えないけど。でも、楽しいものなんだって知ってほしい。
「わたし、頑張るから。…だから、一試合だけでもいいから、見に来てほしいの…。」
「…。」
何とか絞りだした声に、お母さんは声を詰まらせたように沈黙した。…そして、お皿に盛り付けた朝ごはんを食卓において、一言。
「…あなたが全国の決勝戦まで無事に進めたら、ね。」
「…!うん!」
お母さんは小さく苦笑するような声を漏らすと、一変、いつもの元気の良い声でご飯にするよ!と笑いながら言っていた。
…絶対。絶対全国大会まで、決勝戦まで進まないとね!
***
いつもよりちょっと早めに朝食を済ませて少しだけ早めに家を出る。
おかげさまでいつもは一緒にならない秋ちゃんと一緒に登校できた。うん、一郎太以外の人と一緒に登校するなんて随分久しぶりだ。…一郎太には何も言ってないけど…ま、いっか。
下駄箱について上靴に履き替えていた時に軽く肩を叩かれる。何事かと振り返ってみれば。
「雷門さん?」
「おはようございます、円堂さん。ちょっと手伝っていただけない?」
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