あれからあの男の子の残した悲しそうな顔と、意味深に聞こえた言葉に首を傾げつつ家に帰ると…案の定、お母さんに怒られてしまった。
右肘の傷はわたしが思っていたよりも深くて少し化膿しかけていたらしく、二重の説教を受けてしまった。
その上、翌日になって一緒に登校した一郎太にもこっぴどく怒られた。

女ということを忘れてないか、とか、もう二度とこんな傷つくるなよ、とか。…しょうがないじゃないか、出来たんだから。

「…はあ。」
「おはよう、紗玖夜ちゃん。…ってどうしたの、その肘。怪我?」

教室に入ると一番の仲良しさんでサッカー部のマネージャーをやってくれている、木野秋ちゃんが心配そうに話しかけてきた。

「あ、秋ちゃん…おはよ。うん、昨日ちょっと色々あって…。」

苦笑しつつ肘を中心に巻いてある包帯に触れると、秋ちゃんはあんまり無理しないでね、と優しく言ってくれた。

「秋ちゃん…!もう大好き!!」
「あはは…大袈裟だよ、紗玖夜ちゃんったら。」

怒られてばかりで、少しやさぐれ気味だったのが癒された気持ちになった。流石、サッカー部のお母さんなだけあるなぁ…。
なんて、ちょっと場違いな事を考えつつ、HRの時間までの間、二人揃ってサッカーの話で盛り上がっていた。

***

「…あ。」
「……。」

HRの時間。季節外れにやってきた転校生に、思わず声を漏らしてしまう。
何故なら、その転校生さんは昨日の彼だったから。
あちらもわたしに気づいたらしく、何だか気まずげな顔をしている。

「彼は木戸川清修から来た…。」
「豪炎寺修也です。よろしく。」

口数少なくそう告げた彼はそのまま言い渡された席へ。
それを思わず目の先で追いつつ、ふと考える。
…木戸川清修、豪炎寺修也。
木戸川はサッカーでは強豪校で…それに、豪炎寺って言ったら中学校のサッカー界の伝説のストライカー、だった筈…。
どうして、その彼がこの学校に…?

とつとつと朝の連絡を語る先生の言葉にも耳半分で聞きつつ、わたしはもやもやと考え続けてた。
昨日、彼が貸してくれたハンカチを静かに握りしめながら。

***

「あの…豪炎寺くん。」
「…お前か。」

クラスメートの質問攻めが終わった頃合いを見計らって直ぐに彼の所へ直行する。
ぼんやりとした表情で窓の外を眺めていた彼がふ、とこちらを向いた。

「昨日はありがとう。これ…返すね。」
「ああ。…その包帯だと、傷は深かったようだな?」
「思ったよりもね。でも大丈夫だよ、これくらい。」

微かに心配そうな気配を覗かせた豪炎寺くんに笑ってみせれば、安心したかのように彼も笑う。
…何だかお兄さんって感じの人だなぁ。

「あ、そうだ、まだ自己紹介してなかったね。わたし、円堂紗玖夜。よろしくね。」
「円堂、だな。よろしく。…お前、サッカー部なのか?」

取り敢えず自己紹介をすると、何やら深刻な顔で彼はそう訪ねてきた。
わたしは戸惑いつつもそれに頷く。

「え、あ…うん。わたし、キャプテンだけど、一応。」




 


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