全国大会二回戦目、千羽山中との対戦。試合はあと三分で始まると言うのに、わたし達は未だにベンチに座りっぱなしだった。響木監督が、「まだもう1人足りない」と言って、ポジションに着くことを許可していないからだ。
皆が苛立っている中、隣に座っている豪炎寺くんにちらりと目線をやると、いつもの通り腕を組んだままで、何も言わずに目を瞑っている。その様子を見ていたら、何だかわたしも落ち着いていられた。…そう、響木監督があと1人来るって言うんだから、きっともう1人来るんだろう。それを信じて、今は待つしかない。

「ねえ、紗玖夜ちゃん!キャプテンでしょう?お願い、響木監督を説得して!」
「え…あ、でもほら、響木監督もまだ1人来るって言ってるから…誰か来るんじゃないの?」
「もう…紗玖夜ちゃんまで!」

少しだけ怒ったような、困った様な表情をする秋ちゃんに苦笑を一つ返すと、わたしはもう一度ちらりと響木監督の方に目をやる。
…確かに、うちの学校の人は全員揃っている。唯一、壁山くんがトイレに立って不在であるだけで、他のメンバーは皆アップも済ませて試合をする準備は万端に整っているはずなのに。監督が自信ありげにしているから、誰か来るというのは本当なんだろうけれど、一体、誰が来るというのだろうか?

「…来たな」
「え…」

そして、監督の一言と共に現れたその人物。それは何と、雷門ユニフォームと青いマントを纏った鬼道くんの姿だった。
あまりに唐突な登場に皆が唖然とした表情のまま口々に嘘!?とつぶやく。かく言う私も想像もしていなかった人物の登場に声を出す事が出来ず、思わず隣の豪炎寺くんに顔を向けた。…しかし、彼はしたり顔で笑っているだけだったから、何となく予想がつく。
昨日、練習からこっそり抜けて行ったのは恐らく、鬼道くんを再び奮起させるため。そして…鬼道くんは世宇子中にリベンジするためにわたし達のチームに入る事を決めた。…大方、何かしら豪炎寺くんが言ったのだろうとは思うけれど。

「円堂」
「え…あ、何?」
「…俺は、世宇子中にリベンジしたい。あの屈辱は、仲間のために…帝国の為に仇を討ちたいんだ!…だから、頼む、雷門へ…」
「…分かった、良いよ。…どうせそうしてみないかって、豪炎寺くんに言われたんでしょう?」
「…まあな」

にやり、と相変わらずのどや顔のまま、こちらに手を差し伸べてきた鬼道くんの手をきゅっと握る。…こちらも、だれか司令塔となる人が欲しいと感じてきた時期だから、悪い条件ではない。…なんてカッコいい事思ってみたりするけれど、実際はただ鬼道くんと一緒に試合できるのが嬉しくて仕方なかった。

「これからよろしくね、鬼道くん!」
「ああ。…安心しろ、お前や雷門中の皆のサポートもきちんとしてやる」

楽しげにそう言う鬼道くんの言葉が凄く嬉しくて、思わず正面から抱きついていったら、皆に怒られてしまったけれど。でも、これからどんな風に雷門が変わっていくのか、ますます楽しみになってきた。




 


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -