「忍者の戦術を使う…?」
「はい!監督がどうも忍者の末裔らしくて、それで鍛えてるそうで…」
「忍者の末裔…って事は、大きな木とか越えられたりするのかな?水の上をすいすい進むとか!すごい、見てみたいなあ」

全国大会での第一試合の相手は戦国伊賀島というところだと聞いてから、控え室で春奈ちゃんが集めてきた情報はとても興味深いものだった。忍者って言ったらやっぱり大木をジャンプで越えてしまうとか、水の上をすいすいすすむ事とか出来るのかなあ。

「あのな円堂…そんな事言ってる場合かよ…」
「え、だって憧れない?わたし、小さいときから忍者のお話とか聞いてずっと憧れてたの!」
「ああ…そういややたらと忍者モノの本やら何やらを熱心に読んでた時期があったな…」

呆れたような感じで言う染岡くんにそう言えば、一郎太が懐かしそうに目を細めつつもそう呟く。…そう言えばそういった本を見つける度に一郎太の所に持って行って一緒に読んだりしたなあ。
昔を思い出して懐かしく思っていると、わたしと秋ちゃんのケータイが同時に鳴り出した。…誰だろ、こんな時に。

「…夏未ちゃんからだ」
「紗玖夜ちゃんも?私もだよ。…“雷門イレブンの皆へ…”」

秋ちゃんのところに来た夏未ちゃんからのメールは、全国大会の第一試合なのに来れなくてごめんなさい、という事と、必ず勝つと信じている、という応援の言葉だった。…応援してくれる理事長さんや、夏未ちゃんのためにも、この試合にベストを尽くして挑まなければ。
そして、わたしの方へと来たメールは…。

「…えっと…“張り切りすぎてドジ踏んで、怪我しないように。これは理事長の言葉だと思って構いません”って…」

…中々厳しいお言葉だった。変な怪我をして夏未ちゃんに怒られないように、細心の注意を払おう。苦笑してこちらを見る雷門イレブンの皆に苦笑を返しつつ、そう決めた。

***

「…一郎太!」
「…円堂か」

薄暗いフィールドへと続く道に出てみたら、一郎太が1人でフィールドへ向かおうとしているのに気付いて、つい声をかけてしまった。…多分、覚悟を決めてる、んだと思う。陸上部へ帰るか、サッカー部に留まるか。その答えは、多分。

「…あの子、来てるかな?」
「来てるさ、あいつは約束は必ず守る奴だから」

優しく目を細める一郎太の様子に、彼は本当に宮坂くんの事を可愛がっているんだということを理解する。…そして、宮坂くんもだからこそ一郎太の事を慕っているんだということも、理解できた。

「あいつはさ…多分言葉だけじゃ納得してくれないと思う。…だから、俺はサッカーで…言葉であいつに今の俺が選んだ道を見て欲しい。そう思うんだ」
「…それじゃ…」
「ああ。…まだ、此処にいるよ、円堂。お前がいつ怪我するかも分からないしな」
「そ、そんなに怪我してないよ!気をつけてるもん!」
「どうだか」

先程までの緊張感を解き放った彼は茶目っ気を含んで笑う。その顔を見ながら、そしてサッカー部に留まるという答えを聞いて、少しだけ安心した。…まだ、一緒にいられる、と。

「じゃあ、この試合で頑張って、宮坂くんに分かってもらわないとだね!」
「ああ。…さあ、行くぞ!」

わたしに背を向けてフィールドに出て行く彼の背を追う。…宮坂くん、分かってくれるといいな。



 


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -