影野くんの指導によって、炎の風見鶏はほぼ完璧に仕上がった状態にまで持ち込まれた。今もグラウンドで調整を続けているが、コントロールもスピードもパワーも上々。これなら全国大会に持ち込んでも十分に力を発揮できるだろう。

「影野くーん!ばっちりー?」
「ばっちり…!」

校舎の入り口の辺りから見ていてくれた影野くんのガッツポーズに手を振って2人に目を移す。彼らもまた、必殺技の出来に満足しているようだ。

「お疲れ様、一郎太、豪炎寺くん!流石だね、もう殆ど完成してるよ!」
「ああ、ありがとう円堂」
「…だが、まだまだ高みを目指せるはずだ。…まだ、続けるよ」
「そっか…よし、わたしも一緒に頑張るね!」

大分張り切っている様子の2人と少しだけ話をしていると、グラウンドの脇の道に大きな黒い車がすいっと入ってきた。何だろう、と思ってそちらを注目していると、中から場寅さんが出てきて、車の後部座席の扉を開けた。

「…お父様!」
「…お父様…?って、理事長さん!?」

その場に降りて来た壮年の男性に、その場はしばし騒然となった。

***

理事長さんの祝辞を受けて、改めてフットボールフロンティア全国大会への盛り上がりを見せたみんなの下に、とある理事長さんはとある提案を私達に持ちかけてきた。

「ええ!?部室を建て替える!?」
「ああ。部員が増えれば、ここも手狭になってしまうだろう?だから、サッカー部復活と、全国大会への出場のお祝いとして建て替えようと思っているのだが…どうだろう?」

古い古い、お爺ちゃん達の時代から建っているこの部室。雷門サッカー部をずっと見守ってくれていたこの部室を建て替える、という話に、一年生達が喜びの声を上げた。…しかし、わたしはそれに対して微妙な心境を持っていた。この部室は…。

「…このまま、でいいです」
「…ええ!?」

一斉に疑問の声が上がる。それも当然かもしれない。わたしも、勿論古くて汚いものよりも、綺麗で新しいものの方が魅力を感じる。…けれど、この部室は、特別だ。

「この部室は…お爺ちゃんの代からわたし達をずっと見守ってきてくれてる、歴史そのもの。…この部室も、わたし達の仲間だよ。だから、…このままがいいの」

わたしが呟くようにそう言えば、皆が一斉にそれに同意してくれる。…汚いけれど、綺麗にすればまだまだ使えるし、ね!…だから。

「…あの、だから変わりにと言っては何なんですけど…」
「うむ、何でも言ってみたまえ」
「…消臭剤とファブリーズ、あとそれと掃除用のほうきと雑巾を一年分くださいませんか…!」

一同に沈黙が訪れて、…皆が一斉に失笑しはじめた瞬間だった。
―…結構、真剣に言ったつもりなんだけど、なあ…。



 


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