地区大会決勝での興奮も冷め遣らぬまま、翌日を迎えた。その日は監督がお店をわたしたちの貸切にしてくれて、皆思う存分羽を伸ばしていたように思う。わたしは監督のいるカウンターの方でお手伝いしながらだったけれど…それでも楽しかった。というか、一回こういう事、やってみたかったんだよね。

「今日はありがとうございました、監督。楽しかったです!」
「そうか?お前、殆ど人に食べモン配ったり作るの手伝ってただけだろうが」
「実は、一度でいいからこういうお店のカウンターの中、見てみたかったんです」
「変わった思考だな」
「そうでしょうか?気になりません?隠されてるみたいだから、余計に」

そんな他愛無い話をしながらがらんどうになったお店のテーブルを丹念に拭く。一郎太や豪炎寺くんは待っててくれるって言ってたけれど、申し訳ないし、二人とも疲れているだろうから先に帰ってもらった。…しかし、こうやって料理屋のお手伝いするのも中々に楽しい。響木監督の包丁捌きを近くで見られたし…またお手伝いさせてもらえる機会があったら言ってみよう。
そんな事を思いながら鼻歌交じりに最後のテーブルをきゅっと吹き終わると、同時にからからと乾いた軽い扉が開く音がして、前髪と髭を長く伸ばした男の人が1人っきりで入ってきた。

「すみませんね、今日はもう…」

閉店なんです、と言いかけた響木監督が、その男性を顧みて突然口を噤む。そして、懐かしげに浮島!とその人の名前(と思われる)を読んだ。
お互いがお互い、古い友達なのだろうか、久しぶりの再会をとても喜んでいるようだった。

「ほら、そこにいるのが雷門のキャプテンで、大介さんの孫娘だ」
「大介さんの…?孫娘か…成程、道理で似てないわけだ。…いや、そのバンダナをつけてる所は大介さん譲りか?」

感慨深げにわたしを眺めて感嘆の息を漏らす。わたしは急いでその浮島さんという男性に頭を下げた。どうやら彼も伝説のイナズマイレブンの一員らしい。

「初めまして、円堂紗玖夜です。あの…わたし、今までずっとお爺ちゃんやイナズマイレブンの話を聞いて、憧れてたんです!伝説の、イナズマイレブンに!」
「伝説…?」
「はい!すっごく強くって、無敵だったって…!」

話しているうちに感激してきてその浮島という人の手をぎゅっと握ると、彼は驚いたようにしていたが、やがて気落ちしたかのようにわたしの手を振り払う。

「…イナズマイレブンの悲劇を知っているか?」
「え?…あ、はい。知っていますよ。…でも、事故さえ無ければもっと勝ってたはずですよね。だって、イナズマイレブンが強かったことに変わりは無いもの」

わたしがそう言えば、彼はふっと儚げに笑って額に手を付けた。そして唐突に立ち上がる。

「…やっぱり、来るんじゃなかったよ」

寂しそうに笑った彼の後ろ姿は、何処となく後悔や哀愁を漂わせている感じがした。



 


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