試合開始のホイッスルが鳴り響いたその瞬間、凄まじい音を立てて落ちてきたのは…巨大な、鉄骨だった。
わたしは…わたし達は呆然とフィールドを見渡すしか無かった。無惨にも無骨な鉄骨が突き刺さり、見る影すら失った、帝国のフィールドを、見ることしか。

鬼道くんがわたしに試合開始直後、選手を皆、守備陣営、もしくはペナルティーエリアまで下げろと忠告してくれたお陰で、わたしたちの中に負傷した人は1人も居なかった。…けど、鬼道くんが気付いてくれなかったら、と思うと、未だに震えが止まらなくなりそうだ。
―…勝つためだけにここまでやるのか、あの人は…。
半ば足の感覚が麻痺してしまっているように感じたけれど、それを無理矢理動かして歩いて行く鬼道くんの後を追いながら、わたしは漠然とした恐怖や畏怖を感じずにはいられなかった。

***

影山さんが、逮捕された。刑事の鬼瓦さんは、これでお爺ちゃんの事や昔のイナズマイレブンの事が聞けるととても嬉しそうにわたしに言っていた。
…しかし、急遽監督が居なくなった帝国は、試合は、どうなるのだろうか?

「…響木監督、試合は…?」

微かに震えているようにも聞こえる自分の声に改めて驚きながら、響木監督を見上げると、監督はわたしを見下ろして、ゆっくりわたしの頭を撫でた。

「それは、お前が決めることだ。」
「わたしが?」
「あいつらも、きっとお前の判断に従うだろうからな。」

響木監督が顔を向けた先には、先程影山さんを厳しく糾弾したとは思えないほどに落ち込み、項垂れた鬼道くん、源田くん、寺門くんがいた。わたしが深呼吸を一つして彼らの正面にくると、鬼道くんは真っ直ぐわたしの方を見て口を開いた。

「…すまなかった。」
「どうして鬼道くんが謝るの?…わたし達の方こそ、ありがとう。鬼道くんの忠告のおかげで、誰も怪我しなかったんだから。」

お礼を言って軽く頭を下げたら、更に鬼道くんは眉を下げて悲しそうに笑う。

「…影山がこんな事をしたんだ、俺達に試合する資格は無い。…俺達の負けだ。」
「怖い思いまでさせてしまったみたいだしな…。」

同調するように源田くんや寺門くんまで寂しそうに笑った。
まるで、王者としての威厳の欠片も見られない、哀しい表情だった。

わたしが響木監督を見上げると、彼は黙って頷いた。
「…試合、しようよ、鬼道くん。わたし達は、試合しに来たの。正々堂々と帝国と戦って、勝つためにここに来たんだよ。」

俯きがちの鬼道くんの両頬にそっと両手で触れて、しっかりゴーグルに隠された目を見つめる。
驚きを露にしている彼らに、笑いかけた。…そうだ、わたし達は試合をしに来たんだ。精一杯ぶつかって、勝敗を決めに来たんだ。

「鬼道くん達はわたし達を助けてくれた。…それだけでもう十分だよ。だから今度は、本物の帝国と試合がしたいの。…お願い。」

鬼道くんの両頬から手を離して頭を下げる。
その場に沈黙の帳が落ちる。一人一人の息遣いさえも鮮明に聞こえた。
―が、それを破ったのは、他でもない鬼道くんだった。

「…もう、良い、良いから頭を上げてくれ。」

彼らしくない震えた声音を聞いて、わたしは黙って頭を上げて彼らを見据える。

「…そうだな、本物の俺達のサッカーをお前達に見せないとな。」
「じゃあ…!」
「…ああ、雷門の挑戦を受けよう。」

漸く彼らしい態度を取り戻した鬼道くんはわたしとすれ違い様に呟いた。
―ありがとう、と。

…これから、あの帝国との本当の激戦が始まる。



 


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