何度も何度も監督に大丈夫か、と聞かれて、大丈夫、と何度も答えてその場を切り抜けたまではよかった。…でも、頭の中は影山さんの言葉で支配されたまま。延々と回り続ける声に、思わず背筋が寒くなるのを感じた。
影山さんの言葉によって考えさせられるのは罪悪感と恐怖。このまま決勝戦でわたし達が勝てば、鬼道くんが春奈ちゃんと暮らせないかもしれない、そのことに対するもやもやとした劣情。そして、…垣間見えることの無い、実体の知れない影山さんへの恐怖。彼の言葉は何だか、こちらを凍りつかせる何かがあるように思えた。

「…円堂か?どうしたんだ、こんなところで。」
「、源田くん…。」

落ち着かないまま、所在無くスタジアムから離れた場所で1人ぼんやりとしていると、突然後ろから声を掛けられる。…帝国のGK、源田くん、だ。
わたしよりも高い位置にある精悍な顔立ちの眉尻がへにゃ、と柔らかく下げられて優しそうな顔になる。…その顔に、ちょっとだけ安心感を覚えた。

「どうした?迷子になったか?」
「…さっきまで迷子だったけど…でも今は大丈夫。」
「そうか。帝国は広いからな、入学当初は俺も迷ったもんだ。」
「今は迷わない…よね。」
「ああ、まあ流石に慣れたからな。…ところで大丈夫か?顔色が悪いぞ。」

何でも無いような会話を何気なく続けていたら、源田くんが不意に心配そうな顔をして腰をかがめてきた。今更ながら、すごい身長差だなあ、なんて頭の片隅でどうでもいいことを考えながら源田くんと対峙する。不自然に見えないように、いつものように笑顔を作った。

「…うん、大丈夫だよ。」
「…そうか。無理はしないようにな。これから試合なんだから。」
「ん、ありがと。…逆に聞いてもいい?源田くんこそ、ウォーミングもしないで何してたの?」
「ああ…鬼道を探してたんだ。知らないか?」

…まだ、帝国のほうに戻っていないという、鬼道くん。ざわ、と再び心が騒ぐ感覚。
それを何とか押さえつけて、再び源田くんを見上げると、彼は心配そうな顔をしていた。…何でも、影山さんがこの試合に何かを仕掛けているかもしれなくて、それを探しているのだと言うことだった。

「…なら、わたしも一緒に探すよ。1人より2人のほうが良いでしょ?」
「そうか、助かるよ円ど…「だから、何をしてるのって言ってるのよ!」…なんだ?」
「…春奈ちゃんの、声…?」

廊下の先から聞こえてきた春奈ちゃんの怒号に、思わず源田くんと顔を見合わせて、その声のする方へと駆け出した。…もちろん、静かに、だけど。

***

「アップもせずに…何をしていたの!?また、紗玖夜さんたちを傷付けるつもりなの!?」
「…お前には関係ない。」
「…貴方は帝国に行ってから変わってしまった。連絡もくれなくなったし、会いに来てもくれなかった…どうして?私が邪魔だから?」

畳み掛けるように春奈ちゃんが鬼道くんを攻め立てる。いたたまれなくなるような、そな叱責。痛々しいほどに春奈ちゃんの寂しさや兄への愛着への裏返し。そういったものがわたしたちにも伝わってくる。

「あなたとは、もう他人よ!」

悲痛な叫び声が廊下に響いて、そのまま春奈ちゃんが去っていった。…鬼道くんは悔しそうに唇をかみしめて、再び歩き出した。…その先に、彼は一体何を見据えているのだろうか?



 


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