ごそごそ、と何度も何度もロッカーやシャワーを確認している皆に、そろそろ呆れの眼差しを向けたくなってきた。…あれだけ、大丈夫だって言ってるのに、まだ信じてくれないんだろうか。だとしたらわたしも信用されてないみたいでちょっぴり悲しい。

「だから…鬼道くんが大丈夫だって言ったんだから、大丈夫だってば…。」
「そうは言ってもな円堂、あいつだって帝国の一員なんだぜ?」
「もう散々調べたじゃない、何も無かったでしょう?」
「…そうだけどよ…。」

染岡くんは不服そうにあたりをぐるり、と見回している。わたしもその視線を追ってロッカールームを見回す。いたって異常など見当たらない、ただのロッカールームに見える。

「ね、何にも無いでしょう?…もうやめようよ。」
「そうだね、この話はここまで!決勝なんだもの、皆全力で試合することに専念しましょう!」

半ば懇願するような形になったわたしと共にぱん、と手を叩いて秋ちゃんがその場の雰囲気をとりなすように明るくそう言ってくれる。秋ちゃんの言葉によって染岡くんをはじめとする一年生陣がぱっと明るくなった。…何だかちょっとむなしい気もするけど、取りあえずその場が収まった事に感謝しなきゃ。

「…よし!じゃ、時間の制限もあることだし、皆着替えようか!」
「…いやいや待て待て。お前、何処で着替えようとしてんだ。」
「え?ここでだけど?」

荷物を置いて直ぐに着替えを出せば、引き攣った笑みを浮かべた一郎太に即座に止められる。周りを見渡せば、皆微妙な顔つきをしてわたしを見ていた。…あれ?何か変なことを言ったっけ?

「いや…流石にそれは駄目でしょ、紗玖夜ちゃん。」
「…どうして?」
「どうしてって…男子と女子が一緒に着替えなんて…。」
「わたしなら大丈夫だよ〜、全然気にしないから!」

小さな頃は一郎太と一緒に着替えとかしてたし、お風呂にも何回も入ってるから全然平気!…と告げれば、皆が白い目をしてわたしと一郎太を見比べ、夏未ちゃんと秋ちゃんが軽蔑した様な顔をして一郎太を睨んでいた。

「ばっ、おまっ…!む、昔の事だろうが!」
「?うん、だから、昔もそうしてたから、わたしは全然平気だよって言いたかったんだけど。」
「…まあ、風丸の事は抜きにして、だな。お前が平気でも俺たちが気にするんだ。…なあ、豪炎寺、そうだよな!?」
「…ああ。別に着替えてくれ、頼むから。」
「ええ…?うーん…どうしよっか…?」

うんうん、と頷く皆の顔に渋々ながら納得して、なら自分は何処で着替えようか、と秋ちゃんに相談しようとした瞬間。もう一度扉が開いて、鬼道くんがもう一度入ってきた。

「あ…鬼道くん。」
「すまない、言い忘れていた。円堂のロッカールームを別に用意しておいた。案内するから、荷物を持って着いてきてくれないか?」
「ホント!?ありが…。」
「オイコラ、ちょっと待て!円堂を何処に連れて行く気だ!?」

幸いにして、ロッカールームをもう一部屋使わせてもらえることになっていたみたいだから、ありがたく使わせてもらおうと鬼道くんにお礼を言おうとした瞬間染岡くんに遮られる。声音からして、まだ怒っているみたいだ。
対する鬼道くんは相変わらず平静な声で淡々と返答する。

「ロッカールームに案内しようとしたんだが。…何か問題でもあるのか?」
「円堂だけを隔離することも出来るよな。…GKがいなければ、必然的に試合は出来なくなるからな。」
「やめてよ、一郎太、染岡くん!鬼道くんはそんなことする人じゃないってば!…ごめんね、鬼道くん。」
「円堂!」

咎めるような染岡くんの言葉も聞かないフリをして真っ直ぐに鬼道くんに向かって謝れば、彼は気にしてないと言わんばかりにとんとん、とわたしの肩を叩いてくるりと背を向ける。…付いて来いってことか。
結局その場は秋ちゃんが付いてきてくれることになって皆が漸く納得してくれた。…本当に今日は秋ちゃんに頭が上がらないことばっかりだ。感謝しなきゃ、ね。



 


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -