帝国学園の校舎はだだっ広くて、長い廊下だらけで、どこか薄暗くって。とても…何ていうか、気持ちがいい、とは言いにくい場所だった。どこかしら厳格な雰囲気が漂いすぎていて、息が詰まりそうだ。
…そんな中を、じりじりと進んでいくわたしたち一行も、傍から見たらすごくおかしいとは思うんだけど。

「…監督、意外と冗談好きなのかな…。」
「監督なりに…皆の緊張をほぐそうとしてるんだよ。…多分…。」

必死になって一年生達が壁を確認したり落とし穴が無いか確認したりしているのを思わず半笑いで眺めながら秋ちゃんにそう呟けば、秋ちゃんも苦笑する。…大体、ここは普段帝国学園の生徒が使用する場所なんだから、落とし穴やら壁が動く装置なんか作るはずないと思うのはわたしだけじゃなかったらしい。
しかし、監督の言うことを真に受けて必死になって何か無いかと探している一年生達にそんなことは流石に言えず…わたしは黙って彼らがしていることを見守った。

***

「…鬼道くん。」
「久しぶり…でも無いか。無事に到着できたようだな。」

漸くロッカールームに辿りついたと思ったら、丁度タイミング良く鬼道くんが中から出てきた。この間の落ち込んだ顔とは違って、何処と無く落ち着いたような、けれど焦燥を滲ませたような複雑な表情をしている。けれど、彼はひとまずわたし達の到着を喜んでくれたらしい、ちょっとだけ、雰囲気が柔らかくなった。
…でも、染岡くんにはまるで鬼道くんがわたし達が無事に着かなければよかった、と言ったように捕らえたらしい。

「何だと!?まるで事故にでもあったほうが良い様な言い方じゃねーか。まさかこの部屋に何か仕掛けたんじゃねーだろうな!」
「ちょっと、染岡くん…。」

慌てて染岡くんを止めようとしても後の祭り。流石に、気を悪くさせてしまったかな…。

「安心しろ、何も無い。」
「ふん、どうだかな。」
「もう、染岡くん!…ごめんね鬼道くん。」
「構わない。…勝手に入ってすまなかった。」

鬼道くんに慌てて謝罪すれば、彼は呟くように逆に謝罪してきた。そして、一瞬ですっとわたしの耳元まで顔を寄せると、わたしにしか聞こえないであろう小声で、一言。

「…気をつけろ。」
「え…。」

思わず彼の方を向いたときには既にわたしから何歩か先を歩いてしまっていた。そして壁際に背を預けていた豪炎寺くんと一瞬睨み合い、…そのまま廊下の角を曲がって姿が見えなくなってしまった。

…気をつけろ、なんて…一体どういうことなのだろう?
何を言われたのか、と皆に問い詰められるのを右から左へ聞き流しながら、わたしはぼんやりとその意味を掴みあぐねて考え続けていた。



 


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