鬼道くんへと漏れる不満の声を取りあえず差し置いて、河川敷の土手の坂を上る。彼はわたしを待っているのだろうか、黙ってこちらを見つめてきた。

「…久しぶり。元気そうだね。」
「ああ…お前もな。」

声をかければ、微かな笑みを浮かべて応じてきた。しかし、すぐに無表情に近い、何か罪悪感を抱いたような顔になった。

「…冬海の件、謝りたかった。土門の事も。」
「ああ…冬海先生の件はともかく、土門くんの事は全然気にしてないよ。…というよりむしろ、帝国のほうが損したんじゃない?」
「…何故そう思う?」
「だって土門くん面白くて良い人だし、サッカーも上手だし。…帝国から1人いなくなっっちゃったわけだから、帝国の方が損してない?」
「…それもそうだな。」

ようやく笑ってくれた彼に、わたしも安心する。思いつめた顔は彼には似合わないから。しかし、すぐにまたもとの顔に戻ってしまう。…本当にどうしたんだろう?

「お前らが羨ましいよ。…それに比べて俺たちは…。」
「…どうかしたの?」

俯いた鬼道くんの顔を覗き込んで聞いてみれば、彼は苦しげに、悔しそうに話し出した。
帝国が今まで最強でありつづけられたのは、彼らが総帥と呼ぶ存在…影山という監督の策略によるものであって、自分達の力だけでは無いのだと。
常にトップを目指し続けて努力してきたのに、自分が手にしていた物は偽りだったのだと。

「そんなこと無いよ。帝国は十分強いよ!」
「…お前に何がわかる!?」
「分かるよ!…わたし、鬼道くん達と戦って、たくさんシュート受けたんだから!…大丈夫、帝国は強いよ。自信持って!」

気が立っているのか、そう激しくわたしに食って掛かってくる鬼道くんに必死で言い返すと、まるで波が引いていくかのようにすうっと穏やかな顔つきに戻る。…よかった、これでもう、いつもの通りの彼に戻った。
一安心してもう一度鬼道くんの顔をしっかりと見据えれば、彼はふっと笑って口を開く。

「お前たちとの試合、楽しめそうだ。…決勝戦には出られるのか?」
「監督、ね…多分何とかなると思う。…多分。」
「…凄く不安定な物言いだな。本当に大丈夫なのか?」
「あはは…。」

実は監督のあてなんてありません、なんて言えない。言ったらまた、あんな鬼道くんらしくない表情に戻ってしまいそうな感じがして、わたしは笑ってその場をごまかす。
…早めに監督の件を何とかしないとなあ…。

「あ、そうだ。よかったら一緒に練習しない?」
「は?…俺は敵なんだぞ?」
「別にいいんじゃない?何なら今日は仲間って事で。…駄目かな?」

何とかその話題から軌道を反らそうとしてそう鬼道くんを誘えば、彼はゴーグル越しでもわかるくらいに目を見開いていた。何か、変なことでも言っちゃったかな。特に変な事言ったわけでもないと思うんだけど。
ぼんやりと鬼道くんの表情を眺めていたら、苦笑した気配と共に彼がわたしに背を向ける。

「…そのうちな。」

優しさをも含んだ声音が耳に心地よく響いて、思わず顔に笑みが広がる。…彼の言う、そのうち、が来ることを願って、わたしも自分のチームメイトのところへ戻ろうと踵を返した。



 


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