土門くんとの誤解の件はあっさりと片付いたのはよかったのだが…。
一難去ってまた一難、というのはまさにこのことなのだろうと溜め息を吐く。…此度の件で冬海先生は雷門から追放されたのだ。しかし、それに伴って必然的に雷門中のサッカー部顧問がいなくなってしまった。
大会規約には出場参加校には顧問がいることが必須条件。…となると、今の状況では棄権しなければならなくなる可能性も高い。
「…と言う事で…ここまで来て諦めるのも悔しいから、皆で顧問を探そうか!」
またもや部室でにっちもさっちも行かなくなった皆が集い、どうしようか、というか諦めモード全開な雰囲気を破ろうと声をかける。漸く決勝戦まで来れたというのに、たかが顧問がいないだけでこうも左右されるのは何だか腹立だしい。
「運動部の顧問にお願いしてやってもらうのはどうだ?」
「…雷門夏未が言えばやるんじゃねーの。なあ、円堂、そう思うよな?」
「え…あー…まあそれが一番いいとは思うけど…。」
半田くんが出した意見に賛成した染岡くんが何だか不機嫌そうな感じでわたしに同意を求めてくる。凄く不機嫌そう。…まあ、理由も分からないでもないけど。
夏未ちゃんが好意でしてくれたにせよ何にせよ、あんな人でも一応は監督。そこにいるだけで取り合えずの参加が認められたのだ。それを、代理も立てないまま後先考えずに解雇してしまったことで、試合の出場が危うくなってしまったのだ。
「…夏未ちゃんの都合ってものもあるし、今更もうそんなこと言ったって仕方ないから…わたし達だけで探そうよ。…ね?」
いきり立っているような雰囲気を何とか監督探しのエネルギーに向けてほしくて、必死で説得してみようと試みる。…が、しかし、次なる相手はあの帝国。流石に詳しくない人を引っ張りこんで顧問に、というのは些か早計ではないか、という意見が出る。
「確かに誰でもいいって訳じゃないけど…。じゃあどうしたらいいの?」
「…円堂、雷々軒の親父さんはお前のおじいさんの事を知っていた。…ということは…。」
「…あ!」
***
「…困ったなあ…。」
「円堂、身体は大丈夫か。」
「…んー…重かった…。でも何ともないから、大丈夫だよ。」
心配そうにこちらを除き見る豪炎寺くんに笑ってだいじょうぶだと返して、夕方の帰り道を歩く。
結局、雷々軒のおじさんのところに監督になってくれとお願いしに行っても無駄だった。どうもおじさんはサッカーに関わりたくないらしく、粘っていたら皆と一緒に放り出されてしまったのだ。
…しかも、わたしなんて皆の下敷きになってしまっていて。豪炎寺くんと一郎太がひっぱり出してくれなければ、多分もうこの世にいなかった気がする。いや、多分じゃなくて、きっと確実に。
「それより…監督どうしよう…。あの人以外に心当たりなんてないし…。」
「仕方ないな…。取りあえず、練習だけはいつもの通りにやろう。…今は、それしか出来ないしな。」
「…だね…。」
励ますようにそう言ってくれる豪炎寺くんにそう返して、思わず溜め息を吐きそうになるのを堪える。…何でまた、こんな面倒なことに。
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